事務所賃借料等、政務調査費の支出対象とならない⇒違法な支出の返還請求をすることを知事に求める請求(肯定)
名古屋高裁H27.12.24
<事案>
愛知県議会の会派であるZ1、Z2、Z3(一審被告補助参加人。(Z1ら))が同県から交付を受けた政務調査費が使途基準に反して違法に支出されたものであるのに愛知県知事であるYはそれらの返還請求を違法に怠っているとして、同県の住民であるXが、Yに対し、Z1らに対して不当利得返還請求権を行使してそれぞれの支払を請求するように求める住民訴訟。
Z1らは、平成21年度にYより交付を受けた政務調査費の中から、それぞれ事務所の賃借料・光熱費及び自動車のリース料の支出に、約900万円より約3800万円を充てた。これらの経費は、各議員が自己の名で締結した事務所の賃借料等であって、会派であるZ1らの事務所の賃借料等ではなかった。
会派に対する政務調査費の交付に関する条例8条1項は、各会派が政務調査費を充てることができる費用を列記しその7号が「事務費」を掲げ、同条2項は、当該事務費等の使途基準は議会の議長が定めると規定。
愛知県議会における会派に対する政務調査費の交付に関する規程4条および別表は、「事務費」の使途基準を「会派が行う調査研究に係る事務の遂行に要する事務用品・備品購入費、通信費等の経費」としていた。
愛知県議会議長が制定した「政務調査費マニュアル」は、事務費の例示として「自動車のリース」や「事務所の賃借料及び管理運営費(光熱水道等)」を挙げていた。
<原判決>
議員個人が契約した事務所や自動車が、会派による調査研究活動と、議員個人によるその他の活動の双方に使用されている場合には、各活動への使用実績に応じて金額を按分した限度において政務調査費に充てることが許される。
政務調査費に充てることが許されるのはせいぜいその2分の1にとどまると推認するのが相当。
⇒
各議員の使用実績につき詳細な事実認定をした上で、Xの請求の一部を認容する判決。
<判断>
政務調査費を充てることができる経費について、個々の経費ごとにその性質を検討し、それが調査研究に資するため必要な経費といえるか否かを検討するほかない。
政務調査費制度の趣旨及び沿革、名古屋市や東京都における運用との比較、本件賃借料等の性質を検討して、本件賃借料等が一般的に「議員の調査研究に資するため必要な経費」に該当するとは認め難いから、これらの支出から概括的に一定割合につき政務調査費をもって充てることは許されず、これらに政務調査費を充てるには、個別具体的な調査研究の内容と支出との関連性を明らかにし、その両者の関係から必要な支出と認められることが必要。
Z1らにおいて、その所属議員らが個別具体的に特定された各会派の政務調査活動を実施するために事務所を賃借し、リース自動車を確保することが不可欠であるというような特別の事情の存在を主張立証しない限り、本件賃借料等の支出は本来の趣旨・目的に合った使途に充てられていないとの推認を免れない。
Z1らは、会派から議員が委託された特定の政務調査活動を遂行するために、実際どの程度の時間にわたり事務所又はリース自動車を使用しなければならなかったのかといった必要性を個別具体的に主張立証しておらず、右推認は妨げられない。
⇒
Z1らはその各所属議員らが平成21年度に支出した本件賃借料等の全額について、愛知県に対して不当利得として返還すべき義務を負うが、Yは、その不当利得返還請求権を行使していないから、違法に財産の管理を怠る事実がある。
⇒Xの請求全部を認容。
<解説>
●本件賃料等の本件使途基準適合性
政務調査費制度の沿革⇒本件賃料等の支出が「事務費」に当たらない。
●本件使途基準適合に係る主張立証責任
一般的・外形的な事実説:
政務調査費が使途基準に適合しない支出に充てられたことを推認させる一般的・外形的な事実が立証⇒適切な反証がない限り不当利得と判断されるとする説。
判例時報2296
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