特別の利害関係を有する理事が加わった漁業協同組合の理事会の議決(有効とされた事例)
最高裁H28.1.22
<事案>
高知県安芸郡東洋町が、台風の被害に遭った漁業者の所属する町内の漁業協同組合に対し、当該漁業者の被害復旧等に充てるための資金として、町の規則に基づき1000万円を貸し付けた⇒同町の住民である原告が、本件貸付けに係る支出負担行為等が違法であると主張し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、東洋町長を被告として、当時の町長らに対し1000万円の損害賠償請求をすることを求めた住民訴訟。
貸付けの要件には、当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることというものがあった。
本件漁協は、理事8名のうち6名が出席した理事会において、全会一致で、東洋町に対し本件申請をする旨の議決をしたが、その理事会に出席した理事6名には、本件申請に係る被害漁業者の経営者及び同人の子が含まれていた。
水産業協同組合法37条2項は、漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることはできない旨規定(会社法369条2項と同旨の規定)。
<参考規定>
会社法 第369条(取締役会の決議)
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
<判断>
漁業協同組合の理事会の議決が、当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってなされたものであっても、当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものでははいと解するのが相当。
本件漁協の理事8名から特別の利害関係を有する理事2名を除外した6名の過半数に当たる4名が出席してその全員が賛成してされた本件貸付けに係る理事会の議決は、無効であるとはいえない。
⇒
同議決が無効であることから本件支出負担行為等は町長の裁量権の範囲を逸脱してされたものとして違法であるとした原判決の被告敗訴部分を破棄。
原告が他に主張する本件支出負担行為等の違法事由の有無等について審理を尽くさせるため、破棄された部分につき本件を原審に差し戻す旨の判決。
<解説>
最高裁昭和54.2.23は、本判決と同様の判断であるが、当時の中小企業等協同組合法42条は、昭和56年法律第74号による改正前の商法239条5項の規定を準用するところ、同項は「総会の決議に付特別の利害関係を有する者は議決権を行使することを得ず」と定めるもので、現行の会社法等の規定とは文言が異なる。
本判決:
特別の利害関係を有する理事が理事会の議決に加わることができない旨を定める水産業協同組合法37条2項の趣旨が、理事会の議決の公正を図り、漁業協同組合の利益を保護することにあると解されることなどを説示
⇒昭和54年最判と同様に、特別な利害関係を有する理事を除いてもなお議決の成立に必要な多数が存在するならば議決の効力は妨げられないとする見解を採用。
判例時報2297
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