暴行の概括的故意・傷害との因果関係(肯定)
東京高裁H27.5.29
<事案>
①覚せい剤の自己使用の事案
②路上において、被告人を公務執行妨害等の現行犯人として逮捕しようとして被告人運転の自動車の直近に立って被告人車のガラスをたたくなどしてた警察官Aに対し、被告人車を後方に急発進させるなどの暴行を加え、開いていた被告人車助手席ドアと電柱との間にAの右足を挟み、その職務の執行を妨害するとともに、Aに傷害を負わせたという傷害、公務執行妨害の事案。
<解説>
●暴行の故意について
弁護人:被告人が、本件行為の際、被告人車の助手席ドアが開けられていることを認識していない⇒被告人車がAに接触することの認識・認容がなかった⇒暴行の故意を争った。
他人の死傷という結果の発生については確定的な認識があるものの、具体的客体やその個数について不確定な認識にとどまる⇒概括的故意。
この認識は、認識対象となる具体的客体が異なる複数の種であっても、同種の場合には故意を肯定できる。
最高裁H2.2.9:
覚せい剤の輸入、所持罪等の事案において、所持物が覚せい剤であることの確定的な認識はなく、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識であっても、同罪の故意として欠けるところはない。
~
覚せい剤と覚せい剤ではない違法な薬物を、覚せい剤を含む違法な薬物類という類としてみて、その認識があれば、覚せい剤の認識を肯定。
判断:
被告人が無謀な運転行為を繰り返していた⇒被告人車の周囲にいる多数の警察官らの身体に危害が及ぶことを意に介していなかったといえる⇒これらの者に対する不法な有形力を行使することの認識、認容していて、これらの者に対する概括的な暴行の故意が認められる。
●暴行と傷害との間の因果関係
弁護人:本件行為とAの受傷との間には、警察官Bが被告人車の助手席ドアを開ける行為が介在⇒本件行為と損害との間の因果関係を争った。
行為と結果との間に第三者や被害者の行為が介在した場合の因果関係について、最高裁は、被告人の行為の危険性が結果に現実化したか否かによって因果関係の有無を判断。
被害者や第三者の行為が介在した場合の「危険の現実化」の判断枠組みとしては、被告人の杭の危険性と介在事情の結果発生への寄与度を検討するものとして、次のような類型化:
①介在事情によっても、もともと被告人の行為により生じていた結果発生の危険を上回る新たな結果発生への危険性が生じない限り、結果は被告人の行為による危険が現実化したものと評価(最高裁H2.11.20等)。
②介在事情が、被告人の行為により生じた危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合でも、それが被告人の行為により誘発された場合など、被告人の行為の影響下にある場合には、やはり結果は被告人の行為による危険が現実化したものとして評価(最高裁H15.7.16)。
③介在事情が被告人の行為により生じ現存する危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合で、それが被告人の行為と独立したものであるときには、因果関係が否定される場合があり得る。
判断:
当時の現場の状況から、被告人の制止のために警察官が被告人車のドアを開けることもあり得る成り行き⇒Aの傷害につき本件行為の危険が現実化したもの⇒因果関係を肯定。
~
介在事情が被告人の行為に誘発されたものであると評価⇒仮に、介在事情が被告人の行為により生じた危険を上回って、結果発生の危険を新たに生じさせた場合でも因果関係が肯定(②の類型)。
●尿の収集手続にかかる捜査の違法性について
弁護人:尿の差押許可状が発付されていないのに、警察官が医師に依頼して尿を保管させたのは令嬢の先取り執行であり違法であると手法。
C医師の採尿は治療のためであり、被告人も了解していた⇒採尿手続に違法性はない。
医師は、治療目的で採取した尿を自分の意思で使用、破棄でき、全量費消すべき義務もない⇒警察に協力してこれを保管していたことに違法はない。
判例時報2296
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