刑事施設にいる被告人から交付された上訴取下書と、刑訴法367条の準用する同法366条1項
最高裁H26.11.28
<事案>
勾留中の被告人が、第一回公判期日前に勾留取消し請求をし、その却下決定について準抗告申立てた後、その準抗告取下書を提出したが、拘置所内のミスにより裁判所に届く前に準抗告棄却決定がされて同決定謄本が被告人に送達。
⇒この準抗告棄却決定に対して、被告人本人から特別抗告申立。
<争点>
本件取下げの効力発生時期
<規定>
刑訴法 第367条〔同前〕
前条の規定は、刑事施設にいる被告人が上訴の放棄若しくは取下げ又は上訴権回復の請求をする場合にこれを準用する。
刑訴法 第366条〔収容中の被告人の上訴申立方法〕
刑事施設にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を刑事施設の長又はその代理者に差し出したときは、上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなす。
<判断>
刑事施設にいる被告人の書面提出につき、刑事施設の内部手続に時間を要して法的安定性が害されることを防ぐために到達主義の例外を設けたという刑訴法366条1項の趣旨
⇒
刑事施設にいる被告人が、被収容者からの書面の受領を担当する刑事施設職員に対し、上訴取下書を交付し、同職員がこれを受領したときは、刑訴法366条1項にいう「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」に当たると解するのが相当。
<解説>
上訴の取下げは、裁判所に取下書が到達したときにその効力が発生するのが原則であるが(到達主義)、刑事施設にいる被告人による上訴取下げについては、刑訴法367条が準用する同法366条1項により、被収容者が上訴取下書「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」にその効力が発生する(最高裁昭和27.11.19)。
裁判の告知が謄本の送達によってなされる場合(刑訴規則34条)、その謄本が被告人に送達される前に上訴取下書が提出されたときは、事件は有効な取下げによって終局したものとして扱うことになる。
刑訴法366条1項の「刑事施設の長又はその代理者に差し出したとき」の意義に関しては、従前、大阪高裁昭和63.6.22が、「担当看守が在監者から控訴取下書を受取り、指印証明をし、受付簿に記載を終え、控訴取下書を出したことが客観的に証明されたとき」とする解釈を示していたが、学説上は、「担当職員が受け取ったとき」と解すべきとの見解が有力に示されていた。
刑訴法366条1項及び同条を準用する同法367条が適用される場面は、上訴申立書、上訴権放棄書、上訴取下書、上訴権回復請求書といった重要な訴訟行為に関する書面。
本決定を受け、
①被収容者から上訴等申立書を受領した職員は、受領日時を記載する、
②受領した上訴等申立書は、速やかに裁判所に送付する
③上訴が取り下げられたときには、裁判所に速やかに電話などでその旨を伝達する等の取扱いを定める平成27年10月15日付け法務省矯正第2760号矯正局可聴通知が発出。
判例時報2297
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