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2016年8月30日 (火)

介護保険法22条3項に基づく返還命令処分について

佐賀地裁H27.10.23      
 
<事案>
介護保険法上の指定居宅サービス事業者であるXが、偽りその他不正の行為により居宅介護サービス費の支払を受けたとして、介護保険業務を行う一部事務組合であるYから法22条3項に基づき返還命令処分を受けた⇒その取消しを求めた。 
 
<規定>
介護保険法  第二十二条   (不正利得の徴収等)

3  市町村は、第四十一条第一項に規定する指定居宅サービス事業者、第四十二条の二第一項に規定する指定地域密着型サービス事業者、第四十六条第一項に規定する指定居宅介護支援事業者、介護保険施設、第五十三条第一項に規定する指定介護予防サービス事業者、第五十四条の二第一項に規定する指定地域密着型介護予防サービス事業者又は第五十八条第一項に規定する指定介護予防支援事業者(以下この項において「指定居宅サービス事業者等」という。)が、偽りその他不正の行為により第四十一条第六項、第四十二条の二第六項、第四十六条第四項、第四十八条第四項、第五十一条の三第四項、第五十三条第四項、第五十四条の二第六項、第五十八条第四項又は第六十一条の三第四項の規定による支払を受けたときは、当該指定居宅サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる。 

行政手続法 第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)
行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。

四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき

行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
 
<判断>
Xの請求を一部認容。(本件処分のうち審査請求により取り消されるなどされた部分については、取消しを求める訴えの利益がないとして却下) 

本件処分は、行政手続法13条2項4号所定の「納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付をじる不利益処分」に該当⇒聴聞等による意見陳述のための手続が執られなくても違法とはならない

Xが解散し、その清算手続において債権申出期間が定められた中で本件処分がされ、Yは、本件処分の4日後に根拠法令や返還額の算定過程を記載したい資料等を交付

行政手続法14条1項ただし書所定の「理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要」が存したとともに、同条2項所定の「処分後相当の期間内」の理由の提示があった。

事業者が法22条3項に基づき居宅介護サービス費の返還義務を負うものと認められるためには、その前提として、事業者が居宅介護サービス費の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要する

そして、通所介護サービスの提供の有無について認定する証拠資料となり得るのは通所介護記録に限られるものではなく、提供されたサービスが通所介護記録に記載されていないとしても、それ以外の資料によっても当該サービスが提供されなかったと認めることができない限り、事業者が居宅介護サービス費の支払を受けたことにつき法律上の原因がないとはいえない

本件では、有料老人ホーム届出施設の記録に照らすと、Yの主張と異なり、Xによる通所介護サービス等の提供がなかったと認めることができない部分がある⇒Xが当該部分に係る居宅介護サービス費の支払を受けたことに法律上の原因がないとはいえない

<解説>
行政手続法13条2項4号は、金銭に関する処分が多数の者に対する大量の処分であることが多く、争いがある場合には事後の争訟に委ねることが適当である等の理由により、意見陳述手続を要しないこととしたものとされている。

介護保険法22条3項の性格について、平成17年法律第77号による改正前のものについて、最高裁H23.7.14が、介護報酬の不当利得返還義務についての特則を設けたものであるとし、事業者が同項に基づき介護報酬の返還義務を負うには、前提として、事業者が介護報酬の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要する旨判示。

本判決は、後の改正によっても同解釈は左右されないとしたもの。

本判決は、通所介護記録の記録などに関する基準の遵守は、法41条9項所定の審査対象ではない(法律上の原因の有無に関係しない)との判断を前提としているものと思われる。

判例時報2298

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