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2016年7月30日 (土)

照応の原則によらない、いわゆる申出換地を定めたことが適法とされた事例

東京地裁H27.9.15      
 
<事案>
土地区画整理事業の施行区域内に土地を所有していたXを含む66名の地権者等が、当該事業の施行者であるY(独立行政法人都市再生機構)に対し、大型商業施設の誘致が予定され「共同利用」による土地利用を行うこととされている本件街区への換地を求める申出⇒Yがこれを認めて仮換地指定処分
⇒本件街区への進出企業に内定した訴外A社とXを含む3名の間で事業用借地権設定の交渉が不調に終わり、これらの者が仮契約を締結しなかった
⇒Yが、本件街区内に仮換地の指定を受けた地権者のうち、仮契約を締結しなかった3名(Xを含む)を除く63名の地権者等からの要望を考慮し仮契約を締結しなかった者の仮換地の位置を変更したうえで、本件換地処分(換地処分及び清算金決定)
⇒Xがその取消しを求めた。

<規定>
土地区画整理法
第八十九条   換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない
2   前項の規定により換地を定める場合において、従前の宅地について所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限があるときは、その換地についてこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分を前項の規定に準じて定めなければならない。
 
<Xの主張>
土地区画整理法89条1項所定の照応の原則に違反 
 
<判断> 
①最高裁昭和54.3.1を参照
換地を定めるに当たり、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において前記数筆の土地に対する換地の位置や範囲に関する合意をし、当該合意による換地を求める旨を申し出たとき、施行者は、公益に反せず、事業の施行上支障を生じない限り、照応の原則によることなく、合意されたところに従って換地を定めることができる

②Xが他の地権者と同様に本件街区への換地を求める申出をしているため換地の位置や範囲に関する合意がされており、共同利用を前提とした換地処分は公益に反せず事業の施行上支障を生ずるものとも認められず本件換地が本件街区内の他の換地と比較して不公平に定められたものともいえない

本件換地が照応の原則によることなく定めることのできるものであった
 
本件街区に定められた本件換地については、客観的な性状として、本件街区に定められた他の換地と共同利用することが可能な土地であり、地権者の個別の事情により第三者に賃貸等をすることができなかったりXがA社と賃貸者契約を締結できない状態に至っていたりすることなどは、本件換地処分の効力に影響を与えない。

本件換地処分は、照応の原則の各要素を総合的に考慮してもなお、Xの従前地(本件従前地)との比較、あるいは本件事業における他の換地との公平という点から、社会通念上不相当であるということができない
裁量判断を誤った違法なものとはいえない
 
仮換地の指定、仮換地の指定の変更および換地処分は、いずれも別個の行政処分であり、換地処分に先だって仮換地を指摘することを要さず、仮換地の指定は暫定的処分にすぎず、仮換地のの指定の効果が存続する限りそれを抗告訴訟で争い得る
仮換地の指定や変更が仮に違法であってもその違法性は換地処分に承継されない。
 
<解説>
土地区画整理法は、施行区域内の土地の所有権等が換地の申出をしてこれに基づいて施行者が換地を定める定める制度を採用している(同法85条の2ないし85条の4)が、本件で用いられている申出換地は、同法に基づくものではない。 

申出換地について、最高裁昭和54.3.1は、「土地区画整理事業の換地計画において換地を定めるにあたり、施行区域内の特定の数筆の土地につき所有権その他の権利を有する者全員が他の土地の換地に影響を及ぼさない限度内において右数筆の土地に対する換地の位置、範囲に関する合意をし、右合意による換地を求める旨を申し出たときは、事業施行者は、公益に反せず事業施行上支障をじないかぎり、土地区画整理法89条1項所定の基準によることなく右合意されたところに従って右各土地の換地を定めることができる。」として、これを認めている。

地権者間の合意による申出があれば、施行者は、照応の原則によることなく、換地を定めることができる
(行政事務上も、この判例と同様に、法律に基づかない申出換地が可能であると解されている。)

本判決の特徴は、具体的な事案の下で、協働利用を前提とした換地の申出があった場合に、照応の原則によることなく換地を定めることを認め、Xが想定する自己使用や第三者への売却・賃貸などができないという地権者の個別的事情は換地処分の効力に影響を与えないとしたところにある。

共同利用の可否についてやや詳細に判断。
本件換地が客観的な性状として共同利用できないものであれば、本件において申出換地が許容される前提を欠くこととなる。

違法性の承継について、先行処分の訴訟可能性が違法性の承継を否定する際の一要素とされている。

最高裁H21.12.17では、安全認定と建築確認の間に違法性の承継を認めるにあたって、安全認定の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられていないことが考慮された。
本件は、これと異なり、違法性の承継を認める必要がないとしているもの。

判例時報2295

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