傷害致死で懲役8年(裁判員裁判)⇒暴行罪で罰金20万円(控訴審)に
大阪高裁H27.3.11
<事案>
80歳の実母に対し息子及びその妻が暴行を加え全身にわたる多発性障害を負わせて死亡させたとして、傷害致死罪で起訴された事案。
一審は裁判員裁判。
<規定>
刑訴法 第321条〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
<一審>
傷害致死罪を認定⇒被告人両名を各懲役8年に。
<判断>
事件を目撃した被害者の夫の供述(刑訴法321条1項2号で採用された検察官面前調書)をもとに被告人両名の暴行行為を一部認定したが、死亡の原因となった傷害は、認知症の影響によって暴れる被害者を被告人両名が抑えようとして共に転倒した際に生じたことも十分にあり得る。
⇒
①致命傷が被告人両名の故意の暴行によるものとした一審の判断を不合理とし、他方
②一部認定できる暴行は、それによる傷害結果を特定できない
⇒被告人両名を暴行罪により各罰金20万円に処した。
<解説>
認知症の患者が暴れることがあるとの知見は未だ一般的になっているとは言えず、それを理由とする一審における被告人両名の主張は信用されなかったが、控訴審において新たに専門家の意見書等が提出。
被告人側は、故意による暴行を一切否認し、被害者の夫も公判ではそれに沿う証言。
but
1,2審とも公判証言の信用性を否定し、検面調書の特信性を認めて採用し、これが被告人両名の一部有罪の唯一の証拠。
←
①検察庁での取調べの際に被害者の夫がうそを言う理由がない。
②調書作成時に内容を確認した上で署名指印した。
③公判廷での証言が被告人両名を庇っている疑いがあるから信用できない。
but
被害者の夫は右検面調書作成時、本件事件の被疑者とされていた
⇒「嘘を言う理由がない」とは即断できない。
公判証言が信用できないとしてもそれだけでは検面調書の特信性肯定の理由にはならないはず。
~
共犯者あるいは被疑者とされた第三者の検面調書の特信性については種々問題が指摘されている。
判例時報2291
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