入れ墨の有無等を尋ねる調査に回答することを義務付ける職務命令と憲法13条、21条、大阪市個人情報保護条例違反(否定)
大阪高裁H27.10.15
<事案>
Yの地方公営企業(大阪市交通局)の職員X1が、Yに対し、入れ墨の有無等を尋ねる調査に所定の書面で回答しなかったことが職務命令違反にあたるとして大阪市交通局長がX1に対して地方公営企業法29条1項各号等に基づいて戒告処分⇒それが違法であると主張して、その戒告処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。
<X1の主張>
本件の調査は、憲法13条及び21条並びに大阪市個人情報保護条例に違反すると主張。
<規定>
大阪市個人情報保護条例 第6条
実施機関は、個人情報を収集しようとするときは、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし、当該明確にされた事務の目的(以下「事務の目的」という。)の達成に必要な範囲内で、適正かつ公正な手段により収集しなければならない。
2 実施機関は、思想、信条及び宗教に関する個人情報並びに人種、民族、犯罪歴その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる事項に関する個人情報を収集してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1) 法令又は条例(以下「法令等」という。)に定めがあるとき
(2) 事務の目的を達成するために必要不可欠であると認められるとき
<原審>
本件の調査等は、憲法13条及び21条に違反しない。
特定の職員が入れ墨をしているか否か等の情報を収集することは、本件条例6条2項に違反⇒戒告処分取消請求を認容。
損害が発生したとは認められない⇒損害賠償請求は棄却。
<判断>
本件条例にも違反せず⇒原判決が戒告処分取消請求を認容した部分を取り消して、同請求を棄却。
憲法13条及び21条に違反しないとする理由については、以下の骨子の原判決を引用。
①本件の調査は、Yの職員が児童に入れ墨を見せて恫喝したとの新聞報道後、Yの職員が入れ墨をしていることに対する批判が高まっていることを受けて、今後同様の問題が発生することによって市政に対する信用が失墜することのないよう、市民等の目に触れる可能性ある部位に入れ墨をしている職員が市民等に接する機会の多い職務に従事している場合には、よりその機会の少ない職務を端とするさせるための人事配置を行うことを目的とする⇒目的は正当
②再び同様の問題が生じた場合は、非難は更に高まることが予想されるから、あらかじめ、職員の上記部位における入れ墨の有無等を把握し、入れ墨をしている職位にについては市民等と接触する機会が多い部署には配置することを避けるという人事配置上の配慮を行うことには、合理性がある。
③調査の必要性も認められ、さらに、本件の調査は、手段の相当性も認められる。
<解説>
●判断が分かれた最大の点は、特定の職員が市民等の目に触れる可能性のある部位に入れ墨をしているか否か等の情報が、本件条例6条2項の「その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる事項に関する個人情報」(「差別情報」)に該当するか否か。
原審:
①差別情報の意義につき、社会生活において一般的に知られることにより、特定の個人又はその関係者が社会的に不当な差別を受けるおそれがある情報をいう
②入れ墨に対する抵抗感から過剰に反応して不当な差別がされる可能性があることは否定し難い。
⇒差別情報該当性を肯定。
本判決:
入れ墨をしているという属性を、本件条例6条2項に具体的に列挙されている人種、民族又は犯罪歴といった属性と同列に考えることは相当ではない。
⇒差別情報該当性を否定。
●
本判決:
本件条例6条2項1号の「法令等に定めるあるとき」には、法令等の規定の趣旨、目的からみて、差別情報等を収集することができるものと解される場合を含む。
管理者の指揮監督権を定める地方公営企業法15条2項の規定は「法令等」に該当すると判示。
原審:
「法令等」には一般人事行政に関する包括的な指揮監督権を定める規定又は事務分掌規程は含まれない。
否定の裁判例として、大阪高裁H19.11.30
判例時報2292
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