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2016年7月30日 (土)

事業者の労働者(国の機関が直接の指揮命令)の雇用確保についての団体交渉について、国が労組法7条の「使用者」に当たらないとされた事例

東京地裁H27.9.10      
 
<事案>
原告は、参加人(国)が設置する国土交通省の地方整備局の本件三事務所の公用車の管理運航業務を受託していた事業者に雇用されていた労働者7名が加入している労働組合。

原告(労働組合)は、参加人(国)が、原告組合員7名の雇用確保についての団体交渉申入れ拒否したことについて、労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとして広島県労働委員会に救済申立て⇒広島県労委はこれを一部認容する命令(初審命令)⇒参加人は中央労働委員会に対し再審査⇒中労委は、不当労働行為の成立を否定して初審命令を取り消し、救済命令申立てを棄却
⇒原告(労働組合)がその取消しを求めた抗告訴訟 

入札談合の疑い⇒一般居総入札⇒本件受託者は平成21年度の業務を落札できず、同業務に従事していた原告組合員7名を前年度の3月末をもって解雇(雇止め)

7名は、従来、本件三事業所の職員から、公用車の運行先、運行時間ないし緊急時の業務内容等について直接指揮命令を受けているという実態。

本件3事業所を所管する労働局は、本件三事務所の長に対し、本件三事務所の公用車の管理運航業務について、適正な請負ではなく労働者派遣事業に該当するものであり、適正な労働者派遣契約を締結せず、かつ、派遣受入期間の制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けているもの⇒その是正を求める等の行政指導を行っていた。
 
<規定>
労組法 第七条(不当労働行為)

使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
 
<争点>
参加人(国)が原告組合員7名の「使用者」に当たり、本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか。 
 
<判断>
労組法7条の「使用者」の意義について、同条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主を言うが、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同条の「使用者」に当たる。 

直接の雇用関係のない派遣先等が「使用者」として団体交渉義務を負うのは、就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合(派遣先等が交渉事項について現実的、具体的な支配をしていると認められる場合)、又は、雇用関係に隣接した関係が成立していると認めらる場合(近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合)において、当該交渉事項に限る

本件では、参加人は、原告組合員7名の車両管理業務を行う際の運行先、運行時間及び業務内容等の労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定をすることができる地位にあり、その限りにおいて原告組合員7名の「使用者」ということができる。
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上記労働条件以外の事項については、参加人は雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとは認められず、「使用者」とはいえない

原告組合員7名らの採用、労働契約の内容及び雇用継続か解雇かについての決定は、いずれも本件受託者の判断として行われたものであって、参加人は団交事項である原告組合員7名の雇用継続については支配力も決定力もない⇒上記団交事項について使用者とはいえない

①参加人が派遣受入期間の制限を受けて労働者派遣の役務の提供を受けているとしても、平成24年改正前派遣法40条の4による派遣先による直接雇用申込義務の発生要件である派遣元(本件受託者)からの抵触日通知がなされていない⇒参加人は原告組合員7名に対する直接雇用申込義務を負わない
②労働局からの行政指導は、派遣先の直接雇用申込義務についての規定を違反事項から除外⇒原告組合員7名への直接雇用の要請を含むとは認められない。

近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合にも当たらない

本件団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たらない
 
<解説>
●労組法7条の「使用者」について

最高裁H7.2.28:
労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同条の「使用者」に当たる。 

さらに、本判決は、直接の雇用主ではない派遣先等が「使用者」といえる場合について、上記の場合に加え、労働契約と雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合(近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合)を挙げており、労働基本契約説を採用。

●本件では、抗告訴訟の対象である本件命令の被申立人が国土交通省(国)であったことから、処分行政庁である中労委の所属する国を被告とする訴訟において、国が行政事件訴訟法22条による参加を申し立て、受訴裁判所はこれを許可。

平成16年改正により、処分等をした行政庁に代えて、同庁の所属する国又は公共団体を被告とすることとしたのは、被告とすべき行政庁を特定する原告の負担を軽減する等の趣旨によるもの⇒改正前に適法とされていたこの主の訴訟が改正により不適法となることはないと解される。

判例時報2295

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