GPS発信器による捜査の性質
大阪地裁H27.1.27(①)
同H27.6.5(②)
①事件:GPS発信器による動静捜査は強制処分には当たらない⇒同捜査によって得られた証拠能力も肯定
②事件:GPS発信器による動静捜査は対象者のプライバシー等を侵害する強制処分に当たると認めた上、検証の性質を有する。
検証の許可状によらずに行った同捜査を違法とし、同捜査によって得られた証拠及びこれを密接に関連する証拠の証拠能力を否定。
②事件:数か月間にわたって被告人らを追尾監視し、ビデオ撮影した捜査を任意捜査として適法。
but
共犯者方郵便受けの投函口の隙間から内部の郵便物を撮影したことはプライバシーを侵害する捜査又は検証の性質を有する強制処分に該当。
⇒無令状で行った行為は違法。
<解説>
●GPS捜査の強制処分該当性
強制処分と任意処分の区別に関する指導的判例とされる最高裁昭和51.3.16:
①個人の意思の制圧と②身体、住居、財産等の制約を強制処分の要件としている。
①については、現実の意思制圧がなくても、合理的に推認される当事者の意思に反することは同価値であると解する見解が有力。
犯罪関連の情報を秘密裡に取得する捜査は、対象者の合理的に推認される意思に反する場合が少なくない⇒専ら②の権利利益の侵害の有無・程度によって決せられる。
●各決定では、権利利益の侵害として、
①対象車両使用者の位置情報取得による同使用者のプライバシー侵害と
②GPS発信器取付けのために私有地等に無断で立ち入る場合の管理権侵害が問題。
①事件:
本件GPS捜査の具体的な実施状況に着目し、捜査官が尾行の補助手段として接続時に限って位置情報を取得し利用していたことや、制度が低い場合もあること⇒プライバシー侵害の程度は大きいものではないとして強制処分性を否定。
②事件:
本件GPS捜査の精度をより高く評価した上で、私有地等プライバシー保護の合理的期待が高い空間に所在する場合の位置情報が取得できる特質を重視して、同捜査が内在的かつ必然的ンプライバシーを大きく侵害すると評価したほか、管理権侵害の可能性にも言及して、強制処分性を肯定。
括弧書きで、「なお、本件GPS捜査によって得られた位置情報が、公道上に存在する対象車両使用者に関するもののみであっても、本件GPS捜査に係る前記の特質に照らせば、この結論が左右されるものではない。」と説示
⇒
仮に、本件でラブホテル駐車場内の位置情報の取得や同所への捜査官の立入りがなかったとしても、GPS捜査一般に内在するプライバシー侵害の大きさを理由として強制処分性を認める趣旨。
●情報取得型走査に関する最高裁判例
電話傍受に関する最高裁H11.12.16や宅配便荷物に対するエックス線検査に関する最高裁H21.9.28は、いずれも意思制圧の要件に格別言及することなく、権利利益(プライバシー)の侵害を理由に強制処分性を肯定。
防犯ビデオ映像の人物と同一性識別のために、公道上及びパチンコ店内にいる被疑者をビデオ撮影した捜査を任意捜査として適法とした最高裁H20.4.15.
●GPS捜査に関する学説:
A:公道上や不特定多数が出入りできる領域につき、尾行監視と同質である⇒任意処分とする見解
B:一定の厳格な要件の下で任意捜査として許容
C:強制処分とする見解
~
プライバシー保護について公共空間と私的空間を分ける公私二元論を批判し、かつ尾行等との異質性を理由に、公道上を含め、GPS捜査を強制処分とする。
任意捜査として秘密裡に行われる場合、公共空間の位置情報取得に限るつもりであっても、私的空間に係る位置情報が取得されることは避けられない。
●検証許可状による規制の当否:
②事件決定は、GPS捜査は検証の性質を有し、検証許可状を要する。
通信技術を用いた情報取得捜査としては、①捜査対象者の携帯電話端末が発する微弱電波を受信した基地局の位置から端末の位置を推知する方法、②携帯電話端末のGPS機能を利用した端末の位置情報を探知する方法が、検証許可状によって行われている。
判例時報2288
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