成年後見人として活動した弁護士に対する家事審判官による権限行使が公務員職権乱用罪に該当するか(否定)
岐阜地裁H27.10.9
<規定>
刑法 第193条(公務員職権濫用)
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。
<争点>
Yの発言によってXに「義務のないことを行わせた」(刑法193条)といえるか。
<判断>
公務員職権濫用罪の成立を否定し、本件請求を棄却。
①人に「義務をないことを行わせた」というためには、作為を強制するような場合でも、職権濫用行為の相手方の利益が実質的に害されたとみるべき程度の行為の存在を要するというべきであり、準備行為にとどまるような場合はこれに当たらない。
②本件において、最終的に支払うべき金額や支払時期等は未だ定まっていなかったということを踏まえると、Xが行ったのは支払準備としても暫定的な措置であったに過ぎず、実質的な負担ないし不利益を伴うものではない。
⇒その利益を実質的に害したとまではいえない。
⇒
Yがその職権濫用行為により、Xに「義務のないことを行わせ」たとは認められない。
<解説>
●公務員職権濫用罪の保護法益
第一次的:国家の作用の適正を保持し、その威信を保つこと。
第二次的:公務員の職権濫用行為の相手方である故人の自由、権利。
●「職権の濫用」
最高裁H1.3.14:
「刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいう」
●公務委員職権濫用罪の既遂時期
公務員職権濫用罪は未遂犯処罰規定なし⇒既遂時期の判断は大きな意味。
公務員職権濫用罪の法的性質:
A:侵害犯
B:危険版
具体的事案において
「事実上の負担ないし不利益」(最高裁H1.3.14)が発生したか否かについても、その解釈には相当程度の幅があり得る。
本判決:
公務員職権濫用罪の既遂時期について、「職権濫用行為の相手方の利益が実質的に害されたとみるべき程度の行為の存在」を要求。
~
保護法益について、個人的法益にも力点を置く態度。
判例時報2287
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
- 懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)(2023.05.29)
- 警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案(2023.05.28)
- 食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)(2023.05.28)
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
「刑事」カテゴリの記事
- 詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案(2023.05.07)
- 不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味(2023.05.01)
- 保釈保証金の全額没収の事案(2023.04.02)
- 管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)(2023.04.02)
- いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例(2023.03.23)
コメント