厚生年金基金からの任意脱退を承認しなかった対応に裁量権の逸脱・濫用はないとされた事例。
福岡地裁H27.3.16
<事案>
厚生年金基金であるYの設立事業所であるX1及びX2が、Yから任意脱退したと主張し、
主位的には、XがYの設立事業所でなくなったことの確認及びこれを反映したY規約の改正にかかる厚生年金保険法115条3項所定の手続をすることを求め、
予備的に、XがYに支払うべき掛金にかかる納入告知処分の取消しを求めた事案。
<規定>
民法 第678条(組合員の脱退)
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。
<解説>
基金から設立事業所が脱退する場合、設立事業所の減少として厚生年金保険法115条1項所定の規約の変更を要する
⇒
厚生年金法上、代議員会の承認決議及び厚生労働大臣の認可が必要であり、Yの規約においても代議員会の承認を要することされている。
<判断>
基金の代議員会が設立事務所から任意脱退の申出にどのような対応をするかは代議員会の合理的な裁量に委ねられており、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の反にを超え又はこれを濫用したと認められる場合に限り、承認決議をしないことが違法となるとの判断枠組み
⇒
Xの主位的請求を棄却し(確認の利益は肯定)、
予備的請求も、一部不適法とする部分を除き、これを棄却した。
<解説>
同じく基金からの任意脱退について代議員会の承認決議が必要かが問題となった長野地裁H24.8.24は、
「基金から設立事務所が任意に脱退することを常に制限する合理的理由は存在しないというべきであり、少なくとも、「やむを得ない事由」がある場合は、基金からの任意脱退を制限することは許されない」としたうえ、「脱退についての「やむを得ない事由」とは、基本的には原告(設立事務所)の主観的事情によるというべきであるが、被告(基金)事業の不振や他の構成員の不誠実など、被告についての事情もこれに当たると解すべきであり、被告との信頼関係の破壊が重要な要素となるものというべきである。」と判断。
民法上の組合における組合員の脱退に関する民法678条中、やむを得ない事由がある場合は組合から脱退することができるとする部分が強硬規定であって、これに反する組合契約における約定が無効であるとは確定した判例(最高裁H11.2.23)。
本判決:
基金は高い公益性・公共性を有する⇒任意脱退に関する代議員会の判断に裁量権の逸脱又は濫用がある場合に限り、承認決議をしないことが違法となると判断。
判例時報2288
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