市街化調整区域における開発に関する工事が完了し検査済証が交付された後の開発許可取消しを求める訴え(適法)
最高裁H27.12.14
<事案>
処分行政庁である鎌倉市長が行った都市計画法(平成26年法律第42号による改正前のもの)29条1項による開発行為の許可について、本件開発許可に係る開発区域の周辺に居住するXらが、Y(鎌倉市)を相手に、その取消しを求めた事案。
<判断>
市街化調整区域のうち、開発許可を受けた開発区域以外の区域においては、都市計画法43条1項により、原則として知事等の許可を受けない限り建築物の建築等が制限されるのに対し、開発許可を受けた開発区域においては、同法42条1項により、開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付されて工事完了公告がされた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として制限されるものの、予定建築物等の建築等についてはこれが可能となる。そうすると、市街化調整区域においては、開発許可がされ、その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより、予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果が生ずるものということができる。
⇒
市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は、当該開発行為に係る工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しによって、その効力を前提とする予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。
⇒
市街化調整区域内にある土地を開発区域として開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われない。
<解説>
●取消訴訟の訴えの利益
行政処分の取消訴訟の目的は、処分の法的効果により個人の権利利益を侵害されている場合に、判決によりその法的効果を遡及的に消滅させ、個人の権利利益を回復させることにある(最高裁昭和47.12.12)。
⇒
当該行政処分の取消しの訴えは、国民の権利利益を侵害する処分の法的効果が存続しており、これが取り消されることによって処分により侵害された国民の権利利益が回復される場合に限り、その利益を肯定することができる。
⇒
処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分を取り消すことによって回復される法的利益が存するのか否かという観点から検討。
●平成5年最判及び平成11年最判:
市街化区域内にある開発区域における事案であるが、工事が完了し、検査済証が交付された後は、訴えの利益がなくなる旨判示。
平成5年最判:
都市計画法29条の開発許可は、あらかじめ申請に係る開発行為が同法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、その本来的な効果は、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないというものであり、許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可の有するこの法的効果は消滅。
同法81条1項1号に基づく違反是正命令も訴えの利益を基礎付けるものではない。
平成11年最判:
工事が完了し、検査済証が交付された後は、予定建築物について建築確認がされていないとしても訴えの利益は失われる。
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市街化区域と市街化調整区域では、建築等の制限の態様が異なり、開発許可の法的効果も異なる。
開発行為を伴わず開発許可を要しない建築物の建築等:
市街化区域⇒用途地域に関する建築制限等に従う限り、自由にこれを行うことができる。
市街化調整区域⇒都市計画法43条により、原則として都道府県知事の許可を受けない限りこれを行うことが禁止。
開発行為を伴う建築物の建築等:
市街化区域又は市街化調整区域のいずれであっても、開発許可を受けた上で開発行為を行う必要がある。
開発許可がされた場合:
工事完了公告がされた後は、都市計画法42条1項により、当該開発区域内において当該許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として禁止される。
~
市街化調整区域においては、予定建築物等の建築等が可能となる。
市街化区域については、原則として用途地域が定められる⇒都市計画法42条1項ただし書きにより、その制限が一部の場合を除いて及ばないこととなる(建築物の建築等は制限されず、特定工作物のうち一定のものについてのみその新設等が禁止されるにすぎない)⇒同法42条1項の規制は、実質的には市街化調整区域のみについての規制であるとも理解されている。
~
開発許可により、
市街化区域については、原則的な自由の状態が基本的に維持されるのに対し、
市街化調整区域については、一般的な禁止の状態から予定建築物等の建築等につき禁止が解除されるに至る。
~
市街化調整区域内における開発許可については、当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付がされた後においても、当該開発許可に係る予定建築物等の建築等をすることができるという法的効果が残っており、本件においても、Xらは、このような法的効果を排除することにより本件の開発区域における予定建築物の建築を回避して自らの法的利益を回復することが可能となる。
判例時報2288
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