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2016年5月 4日 (水)

夫婦別姓訴訟大法廷判決

最高裁H27.12.16    

<事案>
原告ら5名は、婚姻前の氏を通称として使用している者又は氏の選択をせずに提出した婚姻届が不受理となった者。

原告らは、民法750条(「本件規定」)が憲法13条、14条1項、24条又は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に反するものであって、夫婦同氏制度に加えて夫婦別氏制度という選択肢をもうけない立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける⇒国に対し、それぞれ精神的損害の賠償金150万円又は100万円の支払を求めた。
 
<規定>
民法 第750条(夫婦の氏)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
 
<争点>
①憲法13条に関連して、婚姻の際に、「氏の変更を強制されない自由」が人格権の一内容であるといえるか
②憲法14条1項に関連して、本件規定がほとんど女性のみに不利益を負わせる差別的な効果を有する規定であるといえるか
③憲法24条に関連して、本件規定が同条1項の趣旨に添わない制約を課したものか本件規定が同条の定める立法上の要請、指針に照らして合理性を欠くものか
 
●憲法13条関係 

◎「人格権」の位置づけ 

最高裁の判例
①公権力との関係で憲法13条により保障された権利として認められたもの(ex.みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由)
②憲法13条を根拠とする権利として触れられたもの(「人格権としての個人の名誉の保護」)
③私法上の権利として認められたもの(「肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)」)
④権利には至らない法的保護に値する人格的利益として認められたもの(ex.他人からその氏名を正確に呼称されること)
⑤法的利益であることが否定されたこと(ex.「宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益」)

「人格権」の内容や位置づけは様々。

氏名は「人格権の一内容を構成するもの」(最高裁昭和63.2.16)としても、具体的な検討は、氏名に関するいかなる内容の利益が問題となっているのか、それが憲法上の権利として保障される性格のものであるのかといった点を念頭に置いた上で行う必要

◎判断 
「氏」を含む婚姻及び家族に関する法制度は、その在り方が憲法上一義的には定められておらず、具体的な内容は法律により規律される

氏に関する上記人格権の内容も、憲法上一義的に捉えれるべきものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられる

一定の法制度を前提とする人格権や人格的利益は、いわゆる生来的な権利とは異なり、具体的な法制度の構築と共に形成されていくものであって、当該法制度において認められた権利や利益を把握した上で憲法上の権利であるかを検討することが重要となるほか、法律による制度の構築に当たって憲法の趣旨が反映されることを指摘したもの。

現行の民法における氏に関する規定を通覧した上で、氏の性質について、名と同様に「個人の呼称としての意義」があるものの、名とは切り離された存在として「社会の構成要素である家族の呼称としての意義」がある。

婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が人格権の一内容を構成するものではなく、本件規定が憲法13条に違反するものではない。

○人格的利益として機能する場面
but
氏を改めることにより、
①いわゆるアイデンティティの喪失感を抱くこと、
②従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害されること、
③個人の信用、評価、名誉感情等に影響が及ぶことといった不利益が生ずることは否定できず、近年の晩婚化が進んだ状況の中では、これらの不利益を被る者が増加してきていることがうかがわれる。

これらの点についての利益は、憲法所の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、憲法24条に関連し、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度のあり方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益
 
●憲法14条関係 

◎本判決 
従前の最高裁判例を引用し、その上で、本件規程の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。

夫婦の氏の選択が夫婦となろうとする者の間の協議に委ねられている⇒夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める事実が本件規定の在り方から生じた結果であるといえない。

憲法14条1項の「平等」が、少なくとも裁判規範としては基本的に形式的な平等をいうものであることを示した上で本件規定を当てはめ、さらに、間接差別、差別的効果の法理の考え方を念頭に置いて、文言上の当てはめにとどまらない検討をした。

○実質的平等の機能する場面
広く平等の観点から検討し、氏の選択に関し、これまでは夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数⇒この現状が、夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果によるものかについて留意が求められる

「仮に、社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものである」

このような実質的平等を図ることは、直ちに裁判規範となるものではないものの、憲法24条に関連し、氏を含めた婚姻及び家族に関する歩数制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の1つ。
 
●憲法24条関係 

◎憲法24条1項 
○ 本判決:

憲法24条1項について、「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたもの」であるとした。

①本件規定が婚姻の効力を一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものでない。
②婚姻及び家族にかする法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。
 
◎憲法24条(2項) 

○憲法24条の法意:

最高裁昭和36.9.6:
「継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享受することを期待した趣旨」とするが、法的な位置づけは明らかでない。 
 
○本判決: 
婚姻及び家族に関する事項については、関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであることから、当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであることを指摘。

憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項も前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる」とする解釈。

「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるもの」として、憲法24条には憲法13条や14条1項の範囲にとどまらない固有の意義があることを認めた。 

婚姻及び家族に関する法制度を定めた規定が憲法13条や14条1項に違反する場合には、同時に憲法24条にも違反。
憲法13条や14条1項に違反しない場合であっても、更に憲法24条に適合するものかについて検討すべき場合があることになる。

◎憲法24条の合憲性判断基準

「婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。」と説示。

合理性の基準。
典型的な意味での基本的人権を直接制約する規定の合憲性審査基準が問題となっているものではなく、検討すべき対象が人格的利益や実質的平等といった内容及び実在のあり方が多様な利益。

◎本件規定の検討 
①夫婦同氏制が我が国の社会に定着してきたものであること
②社会の自然かつ基礎的な集団単位である家族の呼称を一つに定めることに合理性が認められること
③夫婦が同一の氏を称することは、家族を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有しており、夫婦間の子が嫡出子であることを示す仕組みを確保することにも一定の意義があること
④家族を構成する個人が夫婦同氏制によりその一員であることを実感することに意義を見出す考え方もあること
⑤夫婦同氏制の下においては、子がいずれの親とも氏を同じくすることによる利益を享受しやすいこと
⑥夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられていること
⑦夫婦同氏制の下においては氏を改める者に一定の不利益が生じ得ることは認めら獲るものの、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより一定程度緩和され得ること

本件規定が直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であることは認めることはできない
⇒憲法24条に違反しない。

判例時報2284

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