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2016年4月 6日 (水)

財産評価基本通達に従って決定される不動産の価格とその適正な時価との関係

東京高裁H27.12.17    

<事案>
4階建てマンション5棟で構成された集合住宅(「本件住宅」)の住戸、階段室及び事務所の各部分並びにその敷地の持分(本件各不動産)を平成19年に贈与により取得。
不動産鑑定士の鑑定評価による本件各不動産の価格により課税価格を算定して贈与税の申告。 
控訴人らは、各処分行政庁から、本件各不動産の価額は財産評定基本通達に定められた評価方式に評価すべき⇒平成19年分の贈与税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分。

控訴人らが、被控訴人に対し、本件各処分のうち控訴人らの申告に係る課税価格及び納付すべき税額を超える部分並びに賦課決定処分の各取消しをそれぞれ求めた事案。
 
<原審>
評価通達に定められた評価方式が贈与により取得した財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合においては、評価通達の定める評価方法による課税実務は、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に差姉弟求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適性な履行の確保(国税通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、相続税法22条の規定の許容するところであると解される。 

上記の場合においては、評価通達の定める評価方法が形式的に全ての納税者に係る贈与により取得した財産の価額の評価において用いられることによって、基本的には素材負担の実質的な公平を実現することができるものであって、同条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである租税平等主義を当然の前提としているものと考えられる。

評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるとき(評価通達六参照)を除き、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ評価通達に定められた評価方式以外の評価方法によってその科学を評価することは、たとえその評価方式によって算定された金額がそれ自体では同条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るものであったとしても、租税平等主義に反するものとして許されない。

・・・本件各不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情があるということはできない。

<控訴>
本件各贈与がされた時期は本件住宅の建替計画に係る建物基本計画案が承認されていたにすぎず、本件住宅に係る一括建て替え決議がされていない
⇒本件住宅の建替えが実現する蓋然性が高いとはいえず、本件各不動産については評価通達による評価方法によっては適正な時価を適切に算定できない特段の事情が認められるというべきであって、本件各処分は実質的には老朽化マンションを新築マンションと同様に評価するものであり、不当と主張し控訴。 
 
<解説・判断>
●相続税法22条は、贈与等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁H22.7.16)。
相続税法は、地上権及び永小作権の評価(同法23条)、定期金に関する権利の評価(同法24条、25条)及び立木の評価(同法26条)については評価の方法を自ら直接定めるほかは、財産の評価の方法について直接定めていない。

納税者間の衡平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し、これにより財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨。

国税庁長官は財産評価基本通達を定め、この通達に従って実際の評価が行われている。

評価対象の不動産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該不動産の贈与税の課税価格がその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り贈与時における当該不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当(最高裁H25.7.12)。

租税法律主義との関係で評価通達の法的意義が問題。
最高裁H25.7.12は、固定資産評価基準(「評価基準」)による土地の価格とその適正な時価との関係等につき、総務大臣が評価基準を定めてこれを告知しなければならない旨を規定する地方税法388条1項を法的根拠として、評価基準の定める評価方法により土地の登録価格は当該土地の適正な時価を上回るものではないと推認されると判示。

これに対し、評価通達は、評価基準とは異なり、上記のような法的規定を欠くため、最高裁H25年判決が説示する趣旨が直ちに評価通達まで及ぶとはいえず、評価通達の法的意義という問題は、判例法理上重要な法律問題として残されている
 
●裁判例 
裁判例は、租税平等主義という観点から評価通達の法的根拠を説示するものが多数。

最高裁H22年判決:
社団医療法人の増資等における出資の引受けに係る増資時における出資の引受けに係る贈与税の課税について、当該社団医療法人の定款には出資した社員が退社時に受ける払い戻し及び当該法人の解散時の残余財産分配はいずれも当該法人の一部の財産についてのみすることができる旨の定めがある場合であっても、評価通達194-2は、社団医療法人及びその出資に関する事情を踏まえつつ、出資の客観的交換価値の評価を取引相場のない株式の評価に準じて行うこととしたものであるから、その方法によっては当該法人の出資を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り、これによってその出資を評価することには合理性がある。
 
●金子:評価に関する通達の内容が、不特定多数の納税者に対する反復・継続的な適用によって行政先例法となっている場合には、特段の事情がない限り、それと異なる評価を行うことは違法になると解すべき

評価基本通達の基本的内容は、長期間にわたる継続的・一般的適用とそれに対する国民一般の法的確信の結果として、現在では行政先例法になっていると解されるので、特段の理由がないにもかかわらず、特定の土地について評価基本通達と異なる方法を用いて高く評価することは違法であると解すべき。 
 
●本判決
本判決は、評価通達が評価の統一を図るための財産の時価の算定に係る技術的かつ細目的な基準として定められている点については評価基準と共通していることに鑑み、相続税法は不動産の評価の方法につき直接定めるものではないが、納税者間の公平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、同法は評価通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定しこれを当然の前提とする趣旨。

相続税法26条の2が土地評価の意見を土地評議審議会に委ねたのも、上記趣旨を踏まえたものと解した上、相続税法自体を法的根拠として、評価通達の定める評価方法による不動産の課税価格が当該不動産の適正な時価を上回るものではないと推認されると判示。

評価通達の法的根拠が納税者間の衡平の確保その他の相続税法の趣旨を踏まえたもの
⇒評価対象の財産の価額が評価通達の定める評価方法に従って決定された場合に、かえって納税者間の公平を著しく害するなどの特別の事情の存するときは、当該財産の課税価格が評価通達によって決定される価格を上回るときであっても、上記相続税法の趣旨に照らし、その課税価格の決定が違法となると認めるのは相当ではない

とすると、最高裁平成25年判決が評価基準によって決定される土地の価格を上回る登録価格の決定が違法となると判示したところは、評価通達には直ちに及ばないと解するのが相当。

判例時報2282

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