刑務所長が、服役中の受刑者と被収容者支援団体関係者との信書の発受を禁止する処分が、違法として取り消された事例。
千葉地裁H27.4.21
<事案>
無期懲役により服役中である原告が、被収容者支援団体関係者との信書の発受信について、刑務所長が禁止⇒違法であるとしてその取消しを求めた。
<規定>
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律 第128条(信書の発受の禁止)
刑事施設の長は、犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者(受刑者の親族を除く。)については、受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる。ただし、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の受刑者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合は、この限りでない。
<争点>
その処分が、受刑者の信書の発受に関して規定した、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律128条の要件に該当するか?
<判断・解説>
●信書の発受は、憲法21条で保障されている表現の自由のひとつ⇒その制約には慎重であることが求められる。
①最高裁H18.3.23:
監獄法46条2項の規定について、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的にかんがみると、受刑者のその親族でない者との間の信書の発受は、受刑者の性向、行状、監護区内の管理、保安の状況、当該信書の内容その他具体的な事情の下で、これを許すことにより監護区内の規律及び秩序の維持、受刑者の身柄の確保、受刑者の改善、更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められる時に限って、これを制限することが許される。
その場合においても、その制限の程度は、上記の障害の発生防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当。
上記信書の発信を許すことのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があるかどうかについて考慮しないで、本件信書の発信を不許可としたことは、裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとして、国賠法1条1項の適用上違法。
その他の最高裁判例(いずれも廃止された監獄法の下での判断)
②未決勾留されている者の購入する新聞紙の記事を抹消した措置に関して、国賠責任は生じないとしたもの
③受刑者の図書の閲読を宣言した措置に関して、国賠責任は生じないとしたもの
④刑務所長が受刑者の信書を検閲したことに関して、国賠責任は生じないとしたもの
⑤受刑者が発信しようとした信書の一部を抹消したことに関して、国賠責任は生じないとしたもの
①~⑤の判例は、いずれも、
規律及び秩序維持のため制限すること自体は認めつつも、
具体的処分の違法性の検討にあたっては、具体的事情のもとにおいて、規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当のがい然性があると認められるときに限り、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲においてのみ制限をすることができるという立場で一貫。
●判断
法128条の解釈・適用は、前記①②で最高裁が示した判断基準を踏まえて行われるべきとした上で、
法128条にいう「犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより、刑事施設の規律及び秩序を害し、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」とは、犯罪を犯す傾向を有している者など当該受刑者がその者と信書の発受という方法で交流すること自体により(すなわち、その信書の内容如何にかかわらず)、刑事施設の規律秩序を害し、又は矯正処遇の適切な実施に放置することができない程度の支障を生ずる相当の蓋然性がある者をいうと解する。
本件においては、原告との関係で、当該支援団体がこのような者に該当するとして刑務所長の判断が合理的な根拠に基づくか否か、信書の発受を禁止する必要があるとして判断に合理性があるか否かという観点から判断。
刑務所長による具体的な処分理由を踏まえて、支援団体自体の目的・活動内容、支援団体の代表者を含む個々の関係者の状況や活動内容等、原告の当時の矯正処遇の状況、信書の内容等を詳細に検討し、関係者の一部に不用意な点があったことを認定しつつも、刑務所長に裁量権があることを考慮しても、その判断に合理的根拠や合理性があるもとはいえないと
⇒処分を違法として取消し。
判例時報2283
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