公判調書の整理期間を定める刑訴法48条3項と憲法31条との関係
最高裁H27.8.25
<事案>
弁護人:
公判調書が弁護人の弁論及び被告人の最終陳述までに作成整理されていなかったとした上、公判調書の整理期間について、判決宣告日以降の作成整理を許容する刑訴法47条3項は、裁判員裁判において、弁論前に、高度に専門的・医学的内容を有する焦点の公判調書を謄写する機会を弁護人から奪うものであって、憲法31条に違反すると主張。
⇒
刑訴法48条3項と憲法31条の関係が問題。
<規定>
刑訴法 第48条〔公判調書の作成・整理〕
公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成しなければならない。
②公判調書には、裁判所の規則の定めるところにより、公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない。
③公判調書は、各公判期日後速かに、遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければならない。ただし、判決を宣告する公判期日の調書は当該公判期日後七日以内に、公判期日から判決を宣告する日までの期間が十日に満たない場合における当該公判期日の調書は当該公判期日後十日以内(判決を宣告する日までの期間が三日に満たないときは、当該判決を宣告する公判期日後七日以内)に、整理すれば足りる。
憲法 第31条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
<判断>
集中審理の実現を図る中での公判調書の位置付けを前提に、公判調書を作成する本来の目的は、
①公判期日における訴訟手続の経過及び結果を明らかにし、その訴訟手続が適式に行われたかどうかを公証することによって、訴訟手続の公正を担保することや、
②事件が上訴審に係属した場合に、上訴審が原判決の当否を審査するために原審における審理の状況を把握できるようにすることなどにある。
この「公判調書を作成する本来の目的等を踏まえ、公判調書を整理すべき期間を具体的にどのように定めるかは、憲法31条の刑事裁判における適正手続の保障と直接には関係のない事柄である」
<解説>
かつては、「公判調書を確認しないと、反対尋問、論告・弁論等の訴訟活動ができない」という主張がよくされたが、本決定は、このような旧来の書面主義に基づく慣行を諫め、裁判員裁判の導入を機に本来の刑訴法が予定する口頭主義、直接主義に基づく集中審理を目指そうという機運を後押しするもの。
判例時報2282
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