地方公務員に支給された通勤手当と国税徴収法76条1項柱書にいう「これらの性質を有する給与」(肯定)
旭川地裁H27.7.21
<事案>
処分行政庁A(稚内市長)が、滞納処分としてXの給与等に係る支払請求権を差し押さえた上、第三債務者(B)(北海道)から領収した金銭について4件の配当処分をしたところ、Xが、計算方法に違法があり、配当処分も違法であると主張して、Y(稚内市)に対し、上記4件の配当処分の取消しを求めた事案。
<争点>
XがBから支給された通勤手当が、国税徴収法76条1項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」に当たるか否か、すなわち国税徴収法上差し押さえることができる債権であるか否か。
<判断>
法76条1項の趣旨に照らすと、同項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」とは、雇用関係又はこれに準ずる職務関係に基づき雇用主等から支給される報酬その他の収入をいうものと解され、本件の通勤手当はこれに該当する。
労務を提供する債務は持参債務であるから、通勤に要する費用は本来労働者が負担すべきものであり、通勤手当が支給されていれば労働者はその分だけ自分の財産から支出を免れることになる
⇒雇用契約等において定められた支給基準に従って支給される通勤手当を「これらの性質を有する給与」に含めてその一部を差押可能なものと取り扱っても不合理といえない。
民事執行法と国税徴収法とではその目的等や差押禁止範囲の規律が異なっていることなどに照らすと、仮に民執法152条1項2号についてはXの主張するとおりに解すべきであるとしても、これに法76条1項柱書きの解釈を合わせることが論理必然とはいえない。
<解説>
法76条1項柱書きにいう「これらの性質を有する給与」については、雇用関係又はこれに準ずる職務関係により雇用主等から支給される報酬その他の収入で賞与又は退職手当の性質を有する給与以外の給与とかいされており、国税基本通達76条関係一も、通勤手当を「これらの性質を有する給与」に含める解釈を示している。
他方、民執法152条1項2号にいう「これらの性質を有する給与」には、通勤手当は含まれないと解するのが通説。
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通勤費は給与の性質を有しない実額支給金にほかならないから、給与等の差押えの対象に含まれず、差押禁止額の計算の基準額から除外して計算されるべき。
判例時報2282
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