傷害被疑事件の現場での現行犯逮捕の不存在⇒自発的に出頭した警察署で令状によらない逮捕⇒国賠請求(否定)
東京高裁H27.8.19
<事案>
現行犯逮捕された事実はなく、被害を受けたことを説明するため、本件現場から自発的にB警察署に出頭した後、午前6時ころ取調室において、逮捕状によらない違法な逮捕をされたと主張⇒国賠法1条1項に基づき、控訴人に対し損害賠償等の支払を求めた。
<規定>
犯罪捜査規範 第126条(逮捕の際の注意)
逮捕を行うに当つては、感情にとらわれることなく、沈着冷静を保持するとともに、必要な限度をこえて実力を行使することがないように注意しなければならない。
2 逮捕を行うに当つては、あらかじめ、その時期、方法等を考慮しなければならない。
3 警察本部長又は警察署長は、逮捕を行うため必要な態勢を確立しなければならない。
4 被疑者を逮捕したときは、直ちにその身体について凶器を所持しているかどうかを調べなければならない。
<原審>
①被控訴人は本件現場で手錠をかけられたり、あるいは掴まれたり密着されたりするなどの物理的な拘束をされることもなく、本件現場からパトカーに向かう際にも、物理的な拘束を直接加える方法以外の方法を含めてその身体を拘束されていなかった。
②逮捕する旨は告げられていなかった。
③被逮捕者に要求される身体捜検(犯罪捜査規範126条4項)は行われていなかった
⇒本件現場における現行犯逮捕はなかった。
<判断>
①被控訴人は逮捕する旨告げられなかったが、喧嘩の相手方が本件現場で現行犯逮捕されている状況のもとで、被控訴人の犯罪事実が明白であると判断した警察官が被控訴人のみを被害者と扱い、任意同行を促すにとどめたというのは不合理。
殴られたので殴り返した旨認めている被控訴人が自発的にB署に出頭したとは認められない。
逮捕の旨をどのように告知するかは現場の状況等に応じて一様ではなく、被控訴人に対し、「殴ったことに間違いなければ、警察署に来てもらい、詳しく事情を聴きたいと告げた」だけで、逮捕と言わなかったことはさほど不自然なものとはいえない
②本件現場からB署到着までの間の被控訴人に対する身体拘束の程度は一般的な逮捕の場合と比べ非常に穏やかであったが、被控訴人をB署に連行した警察官は、被控訴人が本件現場において逮捕されていたことを認識していた、逃走や凶器所持が強く疑われる切迫した状況はなかったなどの事情。
⇒
被控訴人は本件現場で現行犯逮捕されたと認められる。
<解説>
刑訴法に言う逮捕:被疑者の身体の自由を拘束し、引き続き、短時間拘束の状態を続けること。
身体拘束の方法:刑訴法に規定はない。実質的に被疑者の身体の自由を拘束するものであれば、いかなる方法であってもよい。
警察官が被疑者の身体に寄り添って看視し、何時でもその身体を捕捉できる態勢をとり、逃走を防止する方法によって自由を拘束する行為も逮捕に当たる(大阪高裁昭和32.10.10)。
警察官に現行犯逮捕の認識があっても、身体拘束が行われた客観的事情がなければ、逮捕があったとはいえない。
問題の核心は、被控訴人の身体の自由が拘束されたと見られるかどうか。
本判決は、そもそも警察官の措置が被控訴人の身体の自由を拘束したといえる理由を示していない。
被逮捕者の自由な意思に基づく行動を支配する程の処置がとられた客観的状況が認められないとして、現行犯逮捕の存在を否定し、その後の留置・勾留を違法とした裁判例として(山口地裁H12.3.28)
現行犯逮捕する旨の告知は要求されないと解されているが、被疑者が現行犯逮捕された事実を知らず、そのため無用の混乱が生じることも懸念される。
判例時報2281
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