市の職員によって組織された労働組合、職員団体又はその連合体が、3つの年度において、市の庁舎内の一部について、事務所として利用するための目的外使用許可の申請に対する不許可処分⇒最初の年度は違法、その後の2つの年度については適法。
大阪高裁H27.6.2
<事案>
X1~X6は、Y(大阪市)の職員が加入する労働組合、職員団体又はその連合体。平成23年度まで、市の庁舎内の一部を、目的外使用許可を受けて、労働組合等の事務所として利用。
X1~X6は、Yの市長に対し、平成24年度から平成26年度の3階にわたって、市の庁舎内の一部を労働組合等の事務所として利用sるウために目的外使用許可を申請⇒いずれも不許可処分
⇒
これらの各不許可処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償及びこれに対する各不許可処分の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、
平成26年度の各不許可処分について、その取消しを求めた。
(平成24年度及び平成25年度の各不許可処分についての取消請求に係る訴えについては、使用期間が経過したため、取り下げ))
<規定>
労働組合法 第2条(労働組合)
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
労働組合法 第7条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
<原審>
平成24年度から平成26年度までの各不許可処分は、いずれも違法
⇒X1~X6の損害賠償請求を総額350万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容。
平成26年度の各不許可処分を取消し。
<判断>
●平成24年度の各不許可処分
①庁舎内で行政事務スペースが慢性的に不足していたとの事情が存在していたはいうものの、未だ、上記事務室部分を行政事務スペースに割り当てなければならない具体的な必要性が生じていたとまでは認め難い。
②平成24年度の各不許可処分は、市長の発案によって、庁舎内において政治活動が行われる可能性を封じるとの目的で行われたものであって、このような市長による方針の決定は、市会における議員の発言をきっかけに、事実関係の十分な調査や検討を経ずに行われたものであり、その目的と、これに対してとられた手段である上記事務室部分の使用不許可処分との間に、合理的な関連性があるということもできない。
③平成24年度の各不許可処分は、長期間、反復・継続されてきた労働組合等に対する便宜供与を破棄するものであるところ、YがX1~X6を始めとする労働組合等に対して上記事務室部分からの退去を求めてから退去の期限までの期間は約2か月と短い上、YがX1~X6に対して上記事務室部分の明渡しを求める理由を具体的に説明したのは明渡しの約1か月前。
⇒
上記事務室部分の使用許可を与えるか否かの判断が、その管理者である市長の裁量に委ねられており、X1~X6が権利として上記事務室部分の貸与をを求めることができないことなどを考慮したとしても、平成24年度の各不許可処分は、その判断要素の選択に合理性を欠くところがあり、かつ、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるもので、裁量権を逸脱・濫用した
⇒平成24年度の各不許可処分は違法。
●平成25年度及び平成26年度の各不許可処分
①Yにおいては、平成24年7月に、大阪市労使関係に関する条例が制定され(「本件条例」)、その12条で、労働組合等の組合活動に関すr便宜の供与は行わないものとすると定められている。本件条例12条は、労働組合法2条2号本文及び7条3号本文と同趣旨の内容を定めるものであるということができ、労働組合が、使用者に対し組合事務所の供与を請求する権利があるとはいえない。
⇒
本件条例12条による便宜供与の廃止が直ちに労働組合法7条3号に反するということはできず、また、地方実法238条の4第7項や労働組合法7条2号等に違反するということもできない。
②平成25年度及び平成26年度の各不許可処分は、本件条例12条に基づいて行われたもので、庁舎内に必要な行政事務スペースを確保するために行われたものということができ、X1~X6が被る不利益もやむを得ない程度のものということができる。
⇒X1~X6の団結権等を侵害するということはできず、合理的な根拠に基づいて行われたものであって、これについてのYの市長の判断が社会通念に照らし妥当性を欠き、その裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したものであるということはできない。
⇒
平成25年度及び平成26年度の各不許可処分は違法であるということはできない。
⇒
X1~X6の損害賠償請求は、平成24年度の不許可処分については理由がある(総額250万円及びこれに対する遅延損害金の限度で容認)が、その余の損害賠償請求及び平成26年度の不許可処分の取消請求は理由がない。
<解説>
市の庁舎は、地方自治法238条1項にいう「公有財産」であり、同条4項にいう行政財産のうち、「公用」に供する財産に該当。
行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる(地方自治法238条の4第7項)。
市の行政財産について、その使用を許可するか否かは、原則として、その管理者である市長(地方自治法238条の4第7項)の裁量に委ねられる。
⇒管理者である市長の裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるかが問題となる。
管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など、許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる(最高裁)。
労働組合等が当然に使用者の財産を組合事務所として利用する権利を保障されているということはできず、使用者において、労働組合等による上記利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(最高裁)。
類似事例
東京地裁H17.8.29:
使用者の労働組合に対する便宜供与(会議室等の会社施設の使用、組合掲示板の貸与、組合事務所の賃料の支払など)の廃止が、その時期、方法、手続などから不当労働行為意思に基づくもので不法行為に該当するとした。
東京地裁H21.3.27:
当該事案において、その後、便宜供与を再開しないことは、不法行為に当たらないとしている。
判例時報2282
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
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