略式命令請求で、検察官が示談書提出せず。
東京高裁H27.8.31
略式命令請求で、検察官が示談書提出せず。
<事案>
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件について、検察官が略式命令請求の際に有利な情状資料を提出しなかったことの適法性が争われた。
検察官は略式命令請求の際に、弁護人から受領した示談者の写し(被告人が被害者に20万円を支払い、被害者が被告人を宥恕した旨が記載)を提出せず、被害者から聴取した「示談したことは間違いありません。必要なら処罰してもらってもかまいません。」という内容の電話聴取書を提出。
⇒
被告人に対してなされた略式命令は、検察官の求刑意見と同じ50万円の罰金であり、被告人は正式裁判の請求。
⇒
示談書が証拠請求され取調べられ、罰金50万円。
⇒被告人は控訴。
控訴理由は:
①被告人が20万円を支払い、被害者が被告人を宥恕したという事実が記載されている示談書を略式命令請求の際に裁判所に提出せずに罰金50万円を求刑したいのは明らかに正義に反するのに、これを不問に付した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。
②本件示談書を考慮しないで出された略式命令と同額の罰金を言い渡した原判決に量刑不当がある。
<規定>
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
<判断>
検察官は本件略式命令請求の際に一般情状に関する重要な証拠である示談書を提出するべきであった。but示談書の不提出が違法とはしていない。
←検察官がどのような資料を提出するかについては、一定の裁量権が認められるという趣旨。
正式裁判の公判において示談書が取り調べられた⇒原判決に法令違反はない。
量刑も、示談書についても考慮した上で罰金額を定めており、不合理な量刑とはいえない。
<解説>
略式手続は、被疑者の同意を条件に、書面審理のみで財産刑を言い渡す制度。
被疑者の同意は、憲法37条が保障する裁判を受ける権利の部分的放棄。
but
被疑者は同意に際して、あらかじめ略式命令請求の際の証拠資料を知らされるわけではない。
検察官が裁判官の量刑資料を提供することへの信頼がなければ、真の同意は担保出来ない。
検察官に略式命令請求の際に差し出す資料についての裁量権が認められているとしても、その裁量権は、公正さが保たれる限度で行使されなければならない。
被害者が宥恕した旨の示談書を弁護人が証拠請求した場合に、検察官が被害者がなお処罰意思を有している旨の電話徴収書を証拠請求するする例は少なくないとされている。
but
公判で電話聴取書が検察官から証拠請求されれば、弁護人としては不同意とするのが通常。
判例時報2279
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