白昼の繁華街で通行人2名が無差別に包丁で殺害された事案⇒死刑判決
大阪地裁H27.6.26
<事案>
白昼の繁華街で通行人2名が無差別に包丁で殺害された事案。
<争点>
①責任能力(弁護人は心神耗弱主張)
②裁判員法67条の合憲性
③量刑(死刑選択の当否)
<判断>
●責任能力について
弁護人は、覚せい剤中毒後遺症による幻聴を理由に心神耗弱を主張
鑑定人U(裁判所選任の鑑定人)の鑑定(=幻聴の影響は被告人自身の決めた行為を後押ししたにすぎない)について
①幻聴の内容は被告人の置かれた現実から了解でき
②犯行前は幻聴があっても現実を吟味できており、
③犯行直前の幻聴も身の危険を感じさせるものでなく、
④犯行後の幻聴は感想のようなものでその後なくなっており、
⑤犯行直後も現実を吟味できている
ことを根拠とするものとし、その前提とした事実関係や判断過程に問題はない。
鑑定人O(捜査段階の鑑定受託者)(=幻聴の強い影響を認める。)
被告人は幻聴との自覚を次第に失ったという前提事実に疑問を呈した。
U鑑定を尊重しつつ、総合判断により責任能力を検討。
①犯行前に異常な言動はみられず
②犯行動機は置かれた状況から了解でき
③犯行直前から犯行の際の行動も目的や状況に応じており
④葛藤への耐性及び攻撃性の発散への閾値が低い本来の人格と犯行に甚だしい異質性はない。
⇒
本件犯行は幻聴の影響が大きくない状況下で選択・実行されたもの⇒完全責任能力を肯定。
●量刑
①無差別殺人の罪質の悪質さ
②滅多刺しにした犯行態様の残酷さ
③二名死亡等の結果の重大さ
④ダルクに戻るなど生活構築手段もあったのに自暴自棄になった動機の身勝手さ
⑤計画性は低いが、包丁購入時に殺害も選択肢として存在し、犯行決意後は包丁を裸のまま紙袋に入れて臨むなど一定の準備行為をし、強固な殺意で敢行したことを考慮すれば特に重視すべきではないこと
⇒
2名に対する殺人の中で最も重い事案であり死刑はやむを得ない。
弁護人:2名殺害の先例で重視されている計画性が認められない以上、死刑は相当ではない。
vs.
①無差別殺人では特に厳しい量刑がなされていることや、②計画性の低さは本件では重視すべきでないことなどに照らし、先例の量刑傾向を適切に考慮したものとはいえない。
<解説>
●責任能力
責任能力の判断:
①精神障害の有無・内容及びそれが弁識・制御能力にどのように影響したのかの評価と
②当該影響を前提に、犯行当時の精神状態をもって完全(限定)責任能力ありといえるかの評価からなる。
①は臨床精神医学の本文⇒前提資料や結論を導く推論過程などに問題がない限り、鑑定を尊重して行うべき。
②においては、責任能力が最終的には法律判断である以上、鑑定以外の証拠も含めた総合的検討により、被告人の犯行時の病状、犯行前の生活状況、犯行の動機・態様等を考慮し、精神障害と犯行の関係や本来の人格と犯行の関連性を評価すべきものとされる。
覚せい剤中毒は、統合失調症等と比べると人格を変容させる程度は小さく、それによる幻覚・幻聴等の影響は低く評価されることが多い。
当該精神障害が被告人の爆発性・粗暴性を増幅させたものにすぎず、動機は理解でき、犯行態様も異常でない場合には、完全責任能力が肯定される傾向。
●量刑
永山基準。
最近の2決定(最高裁H27.2.3)では、死刑選択は、裁判所の集積から窺われる考慮要素及び各要素に与えられる重みの程度・根拠を出発点とし、総合的評価の上で、公平性も考慮しながら、具体的、説得的な根拠を示して行うべき旨を説く。
各要素に加えられる重みに関して、
①被害者数、②動機・計画性・犯行態様、③その他の要素という序列。
本件は、①②の検討から死刑がやむを得ないとした上で、主として一般情状に関する③の検討より更生可能性を認めつつ、それでも死刑回避には足りないと判断。
被殺害者2名の殺人事件では、死刑と無期懲役が選択割合が拮抗。
無差別殺人では死刑を選択した先例があるが、そこでは殺害の計画性が認定。
2名の殺人で無期懲役にとどまった先例には、計画性がない又は低いと認定されたものが多い。
本件では、犯行直前に一定の準備行動の上、強固な殺意で臨んだ⇒計画性の低さは重視すべきでないと判断。
判例時報2280
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