拘置所内での接見交通の際の写真撮影と接見交通権
福岡地裁小倉支部H27.2.26
拘置所内での接見交通の際の写真撮影と接見交通権
<事案>
弁護士Xが、国選弁護人を務める被告人Aと拘置所の面会室において面会を行った際、デジタルカメラ機能付き携帯電話を用いてAの容ぼうの写真撮影⇒拘置所の職員から当該撮影に係る画像の消去を強要されるなどして接見交通権を侵害された⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、330万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案。
<主張>
写真撮影に関して、拘置所職員らが、次のとおりXの弁護人としての接見交通権を侵害する違法な行為を行ったと主張
本件行為1:
面会の状況を確認する目的の下、XとAとの会話の内容を聞き、また、本件面会室の被収容者側の扉から内部の様子をのぞき見ることで、XとAとの面会の内容を確認していた。また、拘置所職員は、本件面会室内部の様子をのぞき見ることにより右写真撮影を認めるや、本件面会室に入り、Xによる写真撮影を阻止してXとAとの面会について一時停止の措置をとった。
本件行為2:
本件面会終了後、待合室において、約30分にわたり、Xに対し、「重大な違法行為であり、絶対に認められない」「日弁連との協定にも違反する重大な行為であり、日弁連も含めて大問題となる。」等と述べるなどして、本件画像の消去を繰り返し求めた。
本件行為3:
弁護人待合室への出入口を南京錠で施錠した上、弁護人待合室において、Xに対し、撮影した画像を消去しない限り拘置所の建物からの退去を認めないとして、Xの退去を阻止し、画像の消去を強要した。
本件行為4:
拘置所職員は、本件面会の翌日、Xが申請書を提出し、通信機能を備えないカメラを持ち込んでAと接見を行うことを求めたにもかかわらず、これを拒否した。
<規定>
憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
第117条(面会の一時停止及び終了)
第百十三条(第一項第二号ホを除く。)の規定は、未決拘禁者の面会について準用する。この場合において、同項中「各号のいずれか」とあるのは「各号のいずれか(弁護人等との面会の場合にあっては、第一号ロに限る。)」と、同項第二号ニ中「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障」とあるのは「罪証の隠滅の結果」と読み替えるものとする。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
第113条(面会の一時停止及び終了)
刑事施設の職員は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為若しくは発言を制止し、又はその面会を一時停止させることができる。この場合においては、面会の一時停止のため、受刑者又は面会の相手方に対し面会の場所からの退出を命じ、その他必要な措置を執ることができる。
一 受刑者又は面会の相手方が次のイ又はロのいずれかに該当する行為をするとき。
イ 次条第一項の規定による制限に違反する行為
ロ 刑事施設の規律及び秩序を害する行為
・・・・
2 刑事施設の長は、前項の規定により面会が一時停止された場合において、面会を継続させることが相当でないと認めるときは、その面会を終わらせることができる。
<判断>
●弁護人依頼権を定める憲法34条前段は、被疑者等に対して弁護人等から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれないかぎりにおいて、法律に接見交通権の行使と刑罰権の発動・捜査権の行使との間を調整する規定や刑事施設の規律を設けることを否定するものではなく、収容法の右規定は、そのような調整の規定に当たるものとして定められたものであると解される。
接見交通権が憲法の保障に由来する権利であり、とりわけ、未決拘禁者においてはその防御権の尊重に特に留意しなければならない一方、逃亡又は罪証隠滅の防止という未決勾留の目的並びに刑事施設の規律及び秩序の意地の必要性に鑑みて、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」は、逃亡又は罪証隠滅・刑事施設の適正な規律及び秩序に支障を及ぼす具体的な行為をいうものと解するのが相当。
弁護人等と被疑者等との面会の場面における刑事施設の職員による収容法113条1項に基づく措置については、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」に該当するものとされる行為の具体的内容及び性質、同項に基づく措置を講ずる必要性及び当該措置による接見交通権への制約の程度等に照らし、接見交通権に対する不当な制約とならないかぎりにおいてこれを行い得るものと解すべき。
弁護人等と被疑者等との面会の場面においても、規律及び秩序を害する行為が行われ得ることは一概に否定することができず、このような場合には当該行為の制止等の必要があるものというべき⇒刑事施設の職員が「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」が行われる具体的なおそれがある場合に面会の状況を視認しようとすることは、弁護人等と被疑者等との意思疎通の内容を把握しようとすることのない限り、許されるものというべきであり、刑訴法39条1項の趣旨に反するものではない。
●
本件行為1のうち、拘置所職員が本件面会室の会話が途絶えていることなどに気付き、不審に思って本件面会室の前に向かってその内部を見たことは、右「視認」として適法に行い得る行為の範囲にとどまる。
拘置所職員が本件面会室に入り、Xによる写真撮影を阻止した行為について、収用法113条1項に基づく制止の措置についても、「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」が認められる場合において、接見交通権に対する不当な制約とならない限りにおいてのみ、これを行いうる。
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本件において面会室への通信・撮影機器の持ち込みが禁止されている措置は逃亡又は罪証隠滅・刑事施設の適正な規律及び秩序の維持の目的を達するために必要かつ合理的な措置であり、また、通信・撮影機器の持ち込みが禁止されるにとどまり、接見交通権の保障により確保されるべき、身体の拘束を受けている被疑者等が弁護人等と相談し、その助言を受けるなどの援助を受ける機会自体が制限されるものということはできず、当該禁止措置自体に何ら違法な点はない。
刑事施設内の面会室において証拠を保全する目的で写真撮影を行うことは、弁護人等と被疑者等との間で行われる意思疎通には当たらず、また、これを補助するものとみることもできない。
⇒接見交通権保障の範囲に含まれると解することはできない。
携帯電話の本件面会室への持ち込みは本件拘置所における右禁止措置に違反するものであり「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」に当たる。
写真撮影等、弁護人等が面会において把握した情報を記録する行為は弁護活動の一つとして重要なものであって尊重されるべきものであるが、これも刑事施設の規律及び秩序の維持等の観点からの制約があるものというべきであり、本件拘置所における右禁止措置は、弁護活動を不当に制約するものとまでいうことはできず、右制約の範囲内にあるものとみるべき。
●
本件行為2についても、接見交通権を侵害するものではない。
本件行為3,4の違法性を否定。
(Xに対し撮影した画像の消去を求める過程において社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な強要行為があったと認めるべき事情は見いだせない)
判例時報2276
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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