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2016年2月20日 (土)

市職員らの労働組合等に対する市庁舎一部の目的外使用不許可処分の適法性

大阪高裁H27.6.26    

市職員らの労働組合等に対する市庁舎一部の目的外使用不許可処分の適法性 
 
<事案>
X労働組合らは、平成18年7月以降、Y市本庁の地下1階の一部につき目的外使用許可を受け、組合事務所として使用。
Y市市長にAが就任⇒Y市役所の本庁舎からの組合事務所退去というA市長の方針
X労働組合が、平成24年2月17日、使用期間を同年4月1日から1年間とする目的外使用許可申請⇒不許可処分。X労働組合らは退去せず、組合事務所として占有。

平成24年7月27日に、A市長の提案による「Y市労使関係に関する条例」がY市本会議で可決。同条例12条では、「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする」と規定。

その後も、目的外使用許可申請は不許可。

X労働組合らは、
①平成24年度から平成26年度までの上記各年度の不許可処分は、団結権及び労働組合活動の自由を侵害する違法行為であるとして、国賠法に基づく損害賠償を求め、
②平成26年度の不許可処分について、その取消しを求めるとともに本件事務室部分に係る目的外使用許可処分の義務付けを求める一方、

Yは、X労働組合らが本件不許可処分後も、組合事務所として占有している本件事務室部分について明渡しを求めるとともに、使用料損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
地方自治法 第238条の4(行政財産の管理及び処分)

7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。

9 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
 
憲法 第94条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる
 
<原審>
上記各不許可処分は、Y市の裁量権を逸脱・濫用したもので違法⇒損害賠償を一部認容。
平成26年度の不許可処分について、その取消しを命じ。
同年4月1日から同年27年3月31日までの使用許可処分の義務付けを命じる。
Y市のX労働組合らに対する本件事務室部分の明渡請求及び損害賠償請求について棄却。
 
<判断>

行政財産の「目的外使用を許可するか否かは、その用途又は目的を妨げないことを前提とした上で、原則として、行政財産管理者の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。そして行政財産管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時若しくは期間、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性等許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるものと解するのが相当である。」(最高裁H18.2.7)とする理は、労働組合等が行政財産の目的外使用許可を受けて組合事務所として使用する場合においても変わらない。

●平成24年度の不許可処分:
A市長が専ら労働組合を嫌悪し、労働組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認められない。
A市長は、平成23年度の許可満了のわずか3か月前に、何の前触れもなく不許可の方針を表明し、不許可方針の説明も詳細に渡ることを避けた

平成24年度不許可処分は団結権を有する労働組合等であるX労働組合らに対する配慮を欠き、あまりに請求であったということは否定のしようがない。
⇒平成24年度不許可処分は、著しく合理性を欠き、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない。

●平成25年度不許可処分と平成26年度不許可処分:
本件条例12条につき、憲法28条に違反するものではなく労組法は、最小限の広さの事務所の供与をしないことや、供与している状態を解消することについては、直接規制を及ぼす趣旨ではないと解される。
⇒労組法や地方公務員法に違反するものでもない。

行政事務スペースとして利用性が存している⇒いずれの不許可処分も適法⇒国賠請求、平成26年度の不許可処分の取消請求について理由がない

● 平成25年度及び平成26年度の不許可処分は適法⇒Y市による本件事務室部分の明渡請求を肯定
 
<解説>
●本判決
市の庁舎は公有財産であり公用以外での使用が原則として禁止され、目的外使用許可及びその取消しにおいては、行政庁側の使用の必要性が重視され、使用許可を受ける者の使用の必要性はそれに劣後するというのが目的外使用許可制度の趣旨(地方自治法238条の4、7項・9項)。

目的外使用を許可するか否かは、その用途又は目的を前提とした上で、原則として、行政財産管理者の合理的な裁量に委ねられている。

行政財産管理者の裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査には、考慮すべき事項を考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮しなかったかという審査密度の低い形式審査ではなく、考慮要素の重み付けの審査を行う審査密度の濃い判断過程合理性審査の方歩を採って判断した、呉市学校施設使用不許可事件最高裁判決(最高裁H18.2.7)で示された判断枠組みを引用し、目的外使用許可を受けて組合事務所として使用する場合においても妥当する一般準則であるとする判断をした。

本件組合事務所利用について目的外使用不許可に関する裁量権行使の総合考慮において、職員の団結権等に及ぼす支障の有無・程度についても考慮すべき要素にとどまるとし、団結権の侵害や不当労働行為が認められても直ちに目的外使用不許可が違法となるものではないとした。

組合事務所の便宜供与に関しては、当然に使用者の財産を組合事務所として利用する権利を保障されているものではないとする一連の最高裁で示された許諾説をベースとする考え方(最高裁昭和54.10.30)。


組合事務所の供与に関しては、複数組合下での一方組合に対する組合事務所貸与拒否につき不当労働行為として組合事務所貸与を命じた日産自動車事件最高裁判決(最高裁昭和62.5.8)。 

判例時報2278

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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