卒業式における君が代起立斉唱命令違反⇒停職3月・停職6月の各懲戒処分⇒懲戒権者の裁量逸脱として取消・国賠請求
東京高裁H27.5.28
1.卒業式における君が代起立斉唱命令違反⇒停職3月・停職6月の各懲戒処分⇒懲戒権者の裁量逸脱として取消し
2.国賠請求認容
<事案>
事前の職務命令にもかかわらず、平成19年3月の卒業式における国歌斉唱時に起立せず、地公法32条、33条に違反⇒X1につき停職3月、X2につき停職6月の懲戒処分
⇒本件職務命令および本件各処分が憲法19条、23条、26条、教育基本法16条1項に違反するなどとして、Y1(東京都教育委員会)を相手取って取消訴訟を提起するとともに、Y2(東京都知事)に対して国賠法に基づく損害賠償(慰謝料)請求
<先例>
最高裁H24.1.16:
平成18年3月の卒業式における不起立を理由とするX1・X2に対する停職3月という懲戒処分を対象。
処分の量定に関し、懲戒処分をすべきか、いかなる処分を選択すべきかを決定する処分庁の裁量を前提としながら、
不起立行為に対する懲戒において戒告、減給を超えて停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的事情が認められる場合であることを要する。
過去に不起立行為による3回の処分歴しかないX1に対する停職処分は重きに失し、裁量権の範囲を超えるが、過去に不起立行為によるもののほか卒業式等の進行妨害や校長批判文書の配布等による処分(懲戒処分5回および文書訓告)歴を有するX2に対する停職3月の処分は裁量権の範囲内とした。
<原審>
停職処分の「相当性を基礎づける具体的な事情」が問われ
X1については、 裁量権の範囲を逸脱⇒処分取消し。
X2については、裁量権の範囲を逸脱しない。
国賠法1条との関係では、X1に対する処分が取り消されるべきものであっても、本件X1停職処分が裁量権の範囲内の措置として適法を判断したことにつき、職務上通常尽くすべき注意義務違反も過失も認められず、国賠法に基づく損害賠償請求は認められない。
<判断>
●
X1、X2について、取消しを認め、国賠請求についても請求を一部認容し、Y2による各10万円の損害賠償を命じた。
●
X2に対する停職処分の選択について、
「当該停職期間を選択することの相当性や合理性を基礎付ける具体的な事情」が認められるかどうかを問い
①本件不起立の前後におけるX1の態度等において、特に処分の加重を必要とするような特段の事情が認められるか、
②停職期間を加重することによってX2が受けることになる具体的な不利益の内容、の2点を十分に勘案して、慎重に検討することが必要。
①前回処分による停職期間中に校門前での抗議行動等を本件処分にあたって考慮することは思想及び良心の自由や表現の自由を保障する日本国憲法の精神に抵触する可能性があり、相当でない。
②停職期間の上限とされる6月の停職処分を課すことは、不起立行為を重ねた場合に残されている懲戒処分が免職だけということになり、身分喪失の可能性をX2に意識させる、極めて大きな心理的圧力を加えるもの。
③前回処分以前の処分歴が前回処分において考慮されている。
⇒
X2に対する停職6月の懲戒処分は、具体的に行われた非違行為の内容や影響の程度等に鑑み、社会通念上、行為と処分との均衡を著しく失し、裁量権の合理的範囲を逸脱する違法なもの。
●
国賠請求について、本件処分にあたって通常尽くすべき注意義務を怠ったといえるか否かを問題にし、過失を肯定。
<解説>
本判決は、毎回加重される処分量定方式を君が代不起立事案に機械的に適用することの違法を明らかにした。
当該処分実務によって比較的短期間で「自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては、自らの思想や信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫」るもので、それが個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながる点が指摘される。
判例時報2278
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