プールを含む総合スポーツクラブ施設の賃貸借契約における、プールの天井裏の屋根周り部材が腐食による天井崩落の危険発生と、賃貸人(Y)・賃借人(X)の債務不履行責任(双方否定)
東京地裁H27.4.28
プールを含む総合スポーツクラブ施設の賃貸借契約における、プールの天井裏の屋根周り部材の腐食による天井崩落の危険発生と、賃貸人(Y)・賃借人(X)の債務不履行責任(双方否定)
<事案>
Xは、Yに対し、屋根回り部材が腐食し、天井崩落の危険が生じ、損害が生じたことはYの債務不履行⇒損害賠償を請求。
Yは、反損として、逆にXの債務不履行が原因であるとして、損害賠償を請求。
<争点>
①Yの使用目的に適した状態で引き渡すべき債務不履行の有無
②Yの本件接続部単管等の空調設備の点検すべき債務不履行の有無
③Yの鉄骨の維持管理をすべき債務不履行の有無
④平成16年12月末の時点においけるXの防火ダンパー等につき適切な措置を執らなかった債務不履行の有無
⑤平成17年12月27日の時点におけるXのプールの天井裏につき適切な措置を執らなかった債務不履行の有無
⑥Yの損害及び因果関係の存否
<判断>
争点①について:
設計仕様はプールの排気ダクトに塩ビコーティングダクトとするものであったが、建築基準法7条の規定による完了検査を受けるためには建材試験センター等の機関による認定を受けた部材を用いる必要があり、当該部材として塩ビコーティングを施した防火ダンパーが存在しない⇒Yの債務不履行を否定。
争点②について:
本件契約の各特約に照らすと、本件接続部単管等の空調設備の保守点検の義務を負うのは、賃借人であるXであり、Yには当該義務はない⇒Yの債務不履行を否定。
争点③について:
本件契約の特約に照らすと、プールの鉄骨の保守点検の義務を負うのは、賃借人であるXであり、Yには当該義務はなく、本件契約の各特約を合理的に解釈すると、プールの天井裏の鉄骨の保守点検を実施する義務の履行として保守点検を実施する義務を負うものの、その結果、維持管理及び修理取替えの必要が判明したときは、Yがその責任と費用負担において行うことが合意されたものと考えるのが相当。
本件ではXが天井浦の鉄骨の点検を行っていない⇒Yの鉄骨の維持管理を行う義務がいまだ具体的には生じていなかった。
⇒Yの債務不履行を否定。
争点④について:
平成16年12月末の時点において、Xが防火ダンパー等の腐食の状況を認識していたが、遅滞なく、Yに修繕を要する旨を通知すべき義務に違反し、自ら適切な修理を行うべき義務に違反⇒Xの債務不履行を肯定。
争点⑤について:
平成17年12月27日の時点において、Xが天井裏の腐食の状況を認識していたが、遅滞なく、Yに修繕を要する旨を通知すべき義務に違反⇒Xの債務不履行を肯定。
争点⑥について:
Yの主張にかかる損害がBへの調査・改修工事代金相当額であり、因果関係が認められるためには、平成17年頃の鉄骨の状況では賃料免除、調査・改修工事をする必要がなかったことが認められる必要があるところ、当時、鉄骨の一部に相当な腐食が生じており、結局、Yが調査・改修工事と同様な工事を実施せざるを得ない蓋然性が高く、賃料免除をするに至った可能性も否定することが困難。⇒因果関係を否定し、Xの本訴請求、Yの反訴請求を棄却。
<解説>
信託銀行とスポーツ施設の運営会社との間の保守点検、維持管理等に関する詳細な特約が付された同施設の賃貸借契約においてし施設の一部に生じた腐食に伴う損害賠償責任が賃貸人、賃借人のどちらにあるかが問題となった事案。
本件の解決は、主として本件契約中の特約の解釈、適用にある⇒賃貸人の債務不履行を否定。
賃借人の債務不履行は肯定したが、損害との間の因果関係を否定し、債務不履行を否定。
判例時報2276
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