被告人が他国の競業他社に流出させた営業秘密情報について、被告人を懲役5年及び罰金300万円に処した事例
東京地裁H27.3.9
被告人が他国の競業他社に流出させた営業秘密情報について、被告人を懲役5年及び罰金300万円に処した事例
<事案>
電子情報処理機器の製造等を目的とする会社の従業員である被告人が、被害会社らが競業他者に先んじて開発した、当時世界最小の半導体メモリであるNAND型フラッシュメモリの信頼性検査の方法や試験データ等に係る営業秘密情報を、不正の競争の目的で、他国の競業他社に流出させた、不正競争防止法違反の事例。
<手続>
公判前整理手続
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営業秘密侵害罪という事案の性質上、営業秘密の秘匿の範囲も問題となる可能性があり、公判前整理手続において、営業秘密秘匿の範囲を明確にした上で、被告人質問を含む証拠調べの方法についても、検察官、弁護人と事前に十分協議して公判審理を行うのが相当。
平成23年の法改正により、営業秘密を保護するための刑事訴訟手続の特例(法23条ないし31条)
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営業秘密侵害罪に係る事件の刑事訴訟手続について、侵害された営業秘密の内容が公になることへの懸念から、被害会社が告訴を躊躇する事態が生じているとの指摘
①裁判所は、当該事件の被害者等から申出があり、相当と認めるときは、公訴事実に係る営業秘密について秘匿決定をすることができる(法23条1項)。
②秘匿決定⇒営業秘密を公開の法廷で明らかにすることなく行う。
営業秘密の秘匿を実質的に担保するため、呼称等の決定(法23条4項)、起訴状の朗読方法の特例(法24条)、尋問等の制限(法25条)、公判期日外の証人尋問等(法26条)、証拠書類の朗読方法の特例(法28条)等の規定
本件、
①公判前整理手続において、NAND型フラッシュメモリに関する秘密性の高い情報について、秘匿決定。
②被告人が開示した情報の非公知性・有用性等を立証趣旨とする被害会社の技術者の証人尋問の全部、それに関する被告人質問の一部が公判期日外で行うこととされた。
③公判期日外の証人尋問等⇒公判期日において、その結果を記載した書面を取り調べる(刑訴法303条等)。
<判断>
本件開示情報に高い有用性を認めている。
「極めて悪質な営業秘密情報開示の事案であり、我が国産業の中で重要な半導体事業の分野において技術情報の流出がなされたという意味で、社会に与えた衝撃も大きい」~犯情の悪質さを強調し、被告人を懲役5年及び罰金300万円に処した。
<解説>
営業秘密侵害罪の保護法益:
①公正な競争秩序の維持という社会的法益
②営業上の信用という個人的法益
本件では、②の点で、競業他者と被害会社の一方との間で和解が成立し、競業他者が相当高額な和解金を支払った。
平成27年7月3日、不正競争防止法の一部を改正する法律が成立し、同月10日に公布。
改正法では、営業秘密侵害罪の罰金刑の上限額が引き上げられ(個人につき、罰金刑の上限額2000万円、海外仕様の場合等については、上限額3000万円)、非親告罪とされる。
~罰則強化等による抑止力の向上が図られている。
判例時報2276
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