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2016年1月 1日 (金)

匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配と所得区分の判断・国税通則法65条4項にいう「正当な理由」(最高裁)

最高裁H27.6.12    

1.匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配と所得区分の判断
2.匿名組合契約に基づき航空機のリース事業に出資をした匿名組合員が、当該契約に基づく損失の分配を不動産所得に係るものとして所得税の申告をしたことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとされた事例
 
<事案>
匿名組合契約に基づき航空機リース事業に出資をした匿名組合員であるAが、当該事業につき生じた損失のうち当該契約に基づく同人への損失の分配として計上された金額を所得税法26条1項に定める不動産所得に係る損失に該当するものとして所得税の各確定申告(3年分)
⇒所轄税務署長から、上記の金額は不動産所得に係る損失に該当せず同法69条に定める損益通算の対象とならないとして、各年分の所得税につき更正及び過少申告加算税の賦課決定
⇒Aの訴訟承継人であるXらが、国を相手に、上記の各更正及び各賦課決定の取消しを求めた事案。 

<規定>
所得税法 第26条(不動産所得)
不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得区分については、所得税法基本通達36・37共ー21が発出(「旧通達」)されているところ、同通達は平成17年12月26日付けで改正(「新通達」)されている。

旧通達:原則として、営業者の営む事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされ、例外として、営業の利益の有無にかかわらず一定額又は一定割合により分配を受けるものは、貸金の利子と同視し得るものとして事業所得又は雑所得に該当するものとされていた。

新通達:原則として、雑所得に該当するものとされ、例外として、匿名組合員が当該契約に基づいて営業者の営む事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど当該事業を営業者と共に営んでいると認められる場合には、当該事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされている。

国税通則法 第65条(過少申告加算税)
4 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
 
<原審>
①本件匿名組合契約に基づくAへの損失の分配として計上された金額は所得税法26条1項に定める不動産所得に係る損失に該当しない
②新通達をもって従前の行政解釈が変更されたものと評価することはできず、Aの本件各申告に国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえない

Xらの取消請求を棄却
   
Xらが上告受理の申立
 
<判断>
原審の判断のうち所得区分に関する部分(上記①)は是認することができるが、「正当な理由」の有無に関する部分(上記②)は是認することができない。

本件各賦課決定のうち平成15年及び同16年分に係る部分を破棄し、同部分につき一審判決(請求棄却)を取り消して、これらに係る取消請求を認容。
 
<説明>
●匿名組合契約は、昭和20年代に不正金融の規制を回避して資金を集めるための手段として利用⇒昭和26年に発出された所得税基本通達では、匿名組合員が受ける利益の分配が貸金の利子と同視し得る場合には、所得区分を貸金の場合と同様に解されるものとされた。

昭和50年代後半から、航空機リース事業における資金調達の手段として民法上の組合契約や匿名組合契約が利用されるようになったが、これが租税回避の手段として用いられるているとして問題視⇒更正等の処分を巡る訴訟で、処分の取消請求を認容する下級審裁判例
⇒平成17年税制改正により民法上の組合契約について損益通算に関する特例規定(租税特別措置法41条の4の2)が設けられ、匿名組合契約についても平成17年通達改正という形で所得区分に関する解釈の見直し

●匿名組合契約に基づく利益の分配に係る所得区分の判断
A:匿名組合契約に共同事業者組織としての経済的機能がある⇒旧通達を支持する見解
vs.
①匿名組合契約について定める商法の各規定には、匿名組合院が共同事業者であることを示す定めはなく、匿名組合員は、営業者の営む事業に対する出資者としての地位を有するにとどまる⇒匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配は、基本的に、営業者の営む事業への投資に対する一種の配当としての性質を有するものと解される。
②契約当事者間の合意により匿名組合員の地位等につき別段の定めをすることは可能であるところ、当該契約において、匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており、匿名組合員がそのような権限の行使を通じて実質的に営業者と共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には、匿名組合員が受ける利益の分配は、実質的に営業者と匿名組合員との共同事業によって生じた利益の分配としての性質を有する。

本判決:
匿名組合員が受ける利益の分配の性質に関する上記のような理解の下、
①当該契約において匿名組合員が実質的な共同事業者としての地位を有するものと認められる場合には、当該事業の内容に従い、事業所得又はその他の各種所得に該当
それ以外の場合には、当該事業の内容にかかわらず雑所得に該当(ただし、出資が匿名組合員自身の事業として行われる場合には、事業所得)
と判断。

新通達と同様の判断。

●「正当な理由」の有無 
国税通則法65条4項は、過少申告があっても「正当な理由があると認められる」場合には、例外的に過少申告加算税が課されないことを定めるところ、上記の場合に該当するのは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう(最高裁H18.4.20)。

租税法規の解釈に関して確定申告の当時に表示されていた税務官庁の公的見解が変更されたために、修正申告や更正を余儀なくされた場合には、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、・・・納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」に当たるものとして「正当な理由」があると解するのが通説的見解。

本判決:
旧通達と新通達とは取扱いの原則を異にするものである上、本件を含む具体的な適用場面(匿名組合員に当該事業に関する意思決定への関与等の権限が付与されていない場合)についての帰結も異にする
⇒平成17年通達改正によって課税庁の公的見解は変更されたものというべき
平成17年通達改正前に旧通達に従ってされた平成15年分及び平成16年分の各申告には「正当な理由」が認められるとしたもの。

判例時報2273

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