再審請求棄却決定に対する即時抗告審において、裁判所が実施した鑑定を踏まえてもなお、試料汚染の可能性が払拭できないという状況に変わりがなく、同鑑定に依拠することはできないとの理由で、証拠の明白性を否定し、即時抗告が棄却された事例
東京高裁H27.7.31
再審請求棄却決定に対する即時抗告審において、裁判所が実施した鑑定を踏まえてもなお、試料汚染の可能性が払拭できないという状況に変わりがなく、同鑑定に依拠することはできないとの理由で、証拠の明白性を否定し、即時抗告が棄却された事例
<事案>
申立人が、保険金目的で、3名の女性と共謀して、トリカブトにより男性Vを殺害し、風邪薬の副作用により男性1名を殺害、1名に傷害を与えたという、殺人、殺人未遂、詐欺等が成立するとされた、いわゆる本庄事件の再審請求棄却決定に対する即時抗告審決定
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
<主張>
無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときに該当するとして、
共犯者Aが家族に宛てた手紙、仲真紀子北海道大学大学院文学研究科教授の意見書、共犯者Bの弁護人に対する供述録取書、大野曜吉日本医科大学大学院医学研究科社会医学系法医学分野教授の鑑定書等を提出。
<鑑定>
即時抗告審で、保存されていたVの臓器について珪藻類検査を行う鑑定が実施
<判断>
鑑定対象とした臓器について、汚染の可能性が払しょくできない。
⇒検出された珪藻類について汚染によるものではなく、専ら肺から血中に侵入し腎臓、肝臓、心臓に分布したものと断定し得るのかは疑問が残る。
大野鑑定の明白性を否定した原決定は結論において相当であるとし、その他の新証拠についても、全て明確性を否定した原決定に誤りはない
⇒即時抗告を棄却。
<解説>
白鳥決定:
「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである(最高裁昭和50.5.20)。
財田川決定:
白鳥決定を引用した上で、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし、かつ、これをもって足りると解すべきである(最高裁昭和51.10.12)。
判例時報2273
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