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2016年1月17日 (日)

ヘイトスピーチ規制についてのドイツの法状況①:集団侮辱「兵士は殺人者だ」判決

ドイツで、人種や宗教などによって特定される集団に対する侮辱的・脅迫的言論を禁止するための主な法的手段として
①刑法185条の侮辱罪を集団に対する侮辱に対しても適用する集団侮辱と、
②刑法130条の民衆扇動罪
がある。

集団侮辱とは、ある集団についての侮辱的発言が、その構成員個々人に対する侮辱と解され、侮辱罪に該当するとされるもの。

連邦憲法裁判所判決:1995年の「兵士は殺人者だ」判決。

意見表明の自由保障の観点から、集団侮辱の成立要件と厳格化した。

意見表明の自由解釈に際し、「基本法5条1項1文は、制裁への恐れから許される批判もなされなくなるような、基本権行使への威嚇的効果を発生させる刑法185条1以下の解釈を禁ずる。」としたうえで、さらに国家機構への批判が問題となっている場合には「権力批判への特別の保護の必要」に留意しなければならない、という基本姿勢。

集団侮辱を認める刑法解釈自体は容認
←個人が自身の属する集団と「多かれ少なかれ同一化する」ことがある。

意見表明の自由を考慮し、集団侮辱成立には、対象が「境界づけられ見渡せる集団」であることに加えて、非難がその集団のすべての構成員の特徴に結びつけられていることが必要。

①個人の名誉への攻撃と、許されるべき社会的批判、国家機構に対する批判との区別に困難が生じ、「それゆえ、そのような表現の処罰には、意見表明の自由に行き過ぎた制約を課す危険がある」
集団の規模が大きくなれば、その集団への攻撃でそれに属する各個人も攻撃されたと理解することは困難になる。

「兵士は殺人者だ」とうい具体的言明について、集団侮辱性を認める判決例の傾向を否定。

①ドイツ連邦軍兵士に対する侮辱的発言が、それを構成する個々の兵士に対する侮辱罪にあたるとする解釈は容認できるが、あらゆる兵士に対する侮辱が集団侮辱を構成することはできない。
②あらゆる兵士に対する侮辱を、その一部であるドイツ連邦軍に対する侮辱だと解釈することも許されない。
③「兵士は殺人者だ」という言明が集団侮辱となるためには、それが表面上は兵士一般を指しているにもかかわらず、そこで「まさしく連邦軍の兵士が意味されている」と立証できなければならないが、その立証が不十分。


本判決は、集団侮辱の上述の危険性を考えると、意見表明の自由保障の観点からは、英米法のようにこの解釈を認めない方が本来は適切だという姿勢を示唆しつつも、基本法自体がそこまでの限定的解釈を求めるわけではないとして、伝統的な刑法解釈を正面から覆すことは避けた。
そして、集団侮辱の成立に個人の名誉との関連性をより厳密に求めることで、意見表明の自由との調和を図った

以上、毛利透京都大学大学院教授「ヘイトスピーチの法的規制について」(法学論叢176巻2・3号210頁(2014)、218頁~)

ヘイトスピーチ規制の問題について http://kmasafu.moe-nifty.com/blog/2016/01/post-f4d2.html

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