刑事訴訟法39条1項にいう「被疑者」の該当性
名古屋地裁H26.8.28
1.刑事訴訟法39条1項にいう「被疑者」の該当性につき、犯罪の嫌疑や捜査機関の捜査行為、検察官の処分等に係る事実に照らし客観的に判断すべきであり、捜査機関が、特定の者に対する具体的な犯罪の嫌疑に基づいて、取調べ等の具体的な捜査行為を開始した時点において当該者は「被疑者」に当たるとされた事例(積極)
2.拘置所に死刑確定者として収容されている者と弁護士との間の刑訴法39条1項に基づく接見を、当該収容者が「被疑者」に当たらないことを理由に認めなかった拘置署所長の措置が、国賠法上違法とされた事例
<事案>
弁護士X1及びX2が、名古屋拘置所に死刑確定者として収容されていたX3が国家公務員法違反被疑事件の被疑者であることを前提に、刑訴法39条1項に基づく接見申込⇒①接見を認めず、あるいは②職員を立ち会わせることにより法39条1項の接見させなかった⇒接見交通権ないし秘密交通権を違法に侵害されたとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償として、X1においては200万円、X2においては400万円、X3においては176万円の各支払をそれぞれ請求。
<規定>
刑訴法 第39条〔被疑者・被告人との接見・授受〕
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
②前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。
③検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
<判断>
刑訴法39条1項にいう「被疑者」に当たるか否かについては、犯罪の嫌疑や捜査機関の捜査行為、検察官の処分等に係る事実に照らして客観的に判断すべきであり、捜査機関が、特定の者に対する具体的な犯罪の嫌疑に基づいて、取調べ等の具体的な捜査行為を開始した場合には、その開始時点において当該者は「被疑者」に当たると解すべき。
①本件各接見申込みがされる前の時点において、X3が、捜査機関(司法警察員の資格を有する名古屋拘置所職員)から、具体的な犯罪(国公法111条、109条12号、100条1項の罪)の嫌疑に基づいて具体的な捜査行為(取調べ)の着手を受けていたこと、②本件被疑事実について不起訴処分がされたのは、本件各措置がされた時点よりも後であったと考えられる
⇒本件各措置がされたいずれの時点においても、X3は、刑訴法39条1項にいう「被疑者」であったというべきである。
Xらが、本件各措置によって接見交通権ないし秘密交通権を侵害され、それぞれ精神的苦痛を受けたことは明らか⇒当該慰謝料として、Xら各人につき本件各措置1回当たり各3万円を認めるのが相当。
<解説>
死刑確定者として収容されている者について法39条1項の「被疑者」該当性が問題となった珍しい事案。
判例時報2274
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