ヘイトスピーチ規制についてのドイツの法状況②:「アウシュヴィッツの嘘」判決と人種・民族集団への集団侮辱
集団侮辱は、人種・民族や宗教によって区別される集団について成立するか?
連邦憲法裁判所は、「兵士は殺人者だ」判決の前年、1994年に、ナチスによるユダヤ人虐殺の存在を否定する「アウシュヴィッツの嘘」と呼ばれる言論が、そいつ在住ユダヤ人に対する集団侮辱となることを肯定する判決。
憲法異議を申し立てた側の主張:このような集団侮辱を認める刑法解釈は、政治的に望ましくない言論を禁止するために使われる、侮辱概念の許されない拡張解釈であって、意見表明の自由を保障する基本法5条に反して違憲。
連邦憲法裁判所:侮辱罪の保護法益は「人格的名誉」としたうえで、原判決が「ユダヤ人迫害の否定の中に、重大な人格権侵害を認めた」ことには憲法上の問題はない。
「連邦通常裁判所によって確立された、第三帝国におけるユダヤ人住民に対する人種を動機とする虐殺の否定と、今日生活しているユダヤ人の尊重要求と人間の尊厳への攻撃との間の根拠づけ連関には、憲法上異論をはさむ必要はない」と述べ、ドイツ在住ユダヤ人に対する集団侮辱の成立を認めた。
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ドイツ在住ユダヤ人に対する集団侮辱の肯定が、過酷な歴史的体験から生じた構成員個人個人の集団への強い帰属意識と、その歴史からドイツ社会構成員に生ずる、彼ら彼女らのユダヤ人としての自己理解に対する尊重責任に求められており、本判決の集団侮辱肯定は、ドイツのユダヤ人の置かれた特殊な歴史的・社会的環境によるところが大きい。
専門裁判所の判決例においても、人種・民族や宗教集団について集団侮辱が認められた例は、ユダヤ人を除いては存在しない。
ドイツ在住ユダヤ人への集団侮辱が「その人数にもかかわらず」認められてきたのは、ナチス期に被った「歴史上唯一的な」運命によってのみ説明できるとし、その他の「もはや人数的に見渡し難い」民族的な「住民の一部」には集団侮辱は認められないとの解説。
以上、毛利透京都大学大学院教授「ヘイトスピーチの法的規制について」(法学論叢176巻2・3号210頁(2014)、220頁~)
ヘイトスピーチ規制の問題について http://kmasafu.moe-nifty.com/blog/2016/01/post-f4d2.html
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