窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件により少年を中等少年院に送致する旨の決定の対し、事実誤認及び処分不当を理由に抗告申立て⇒抗告を棄却した上で、一般短期処遇相当の処遇意見を付した事例
東京高裁H27.1.13
窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件により少年を中等少年院に送致する旨の決定の対し、事実誤認及び処分不当を理由に抗告申立て⇒抗告を棄却した上で、一般短期処遇相当の処遇意見を付した事例
<事案>
少年が、①路上に駐車中の原動機付自転車1台を窃取し、②その原動機付自転車を無免許で運転し、③保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り付かず、不道徳な人と交際し、自己及び他人の特性を害する行為をする性癖があり、このまま放置されれば、その性格及び環境に照らして、将来窃盗、詐欺等の罪を犯すおそれがあるという窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件の事案。
<規定>
少年法 第3条(審判に付すべき少年)
次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一 罪を犯した少年
二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
2 家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付することができる。
<原審>
①~③までの各事実を認定。
少年を中等少年院に送致する保護処分。
<抗告>
③のぐ犯事実に関する事実認定及び処分不当を理由に抗告。
少年について、少年法3条1項3号イのぐ犯事由に該当する事由はあるが、同ロ、ハ及びニのぐ犯事由に該当する事由はない。
⇒これらの事由があると認めた原決定には重大な事実の誤認がある。
<判断・解説>
●ぐ犯事実について
少年法3条1項3号イから二までに掲げられているぐ犯事由は、人権保障の見地からぐ犯性判断に客観性を与えるため現行法で初め規定されたものであり、ぐ犯性を類型化して限定するもの⇒制限列挙であると解される。
これらのぐ犯事由のいずれか1つ以上に該当し、かつ、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれ(ぐ犯性)のあることが、ぐ犯少年の要件とされる。
判断:
①少年が、約1か月にわたり家出をし、その後も夜遊びを繰り返して、両親とは口も聞かずすれ違いのような生活を送っていたことなど⇒少年法3条1項3号ロの「正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと」のぐ犯事由に該当。
②少年が、特殊詐欺への関与を持ち掛けてきた人物に対し、詐欺に関与する者として友人と引き合わせるとともに、そのような人物と行動を共にしていた。
⇒ハ「不道徳な人と交際」すること、二「自己」及び「他人の特性を害する性癖のあること」の各ぐ犯事由にも該当。
●処分の相当性について
判断:
少年の要保護性は極めて高く、社会内処遇により健全育成を図ることは困難であって、少年を少年院に収容し、専門的、系統的な矯正教育を施す必要があり、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。
⇒抗告棄却。
尚、一般短期処遇による教育を実施することが相当であるとの意見を付した。
←
①少年に家裁係属歴がないこと、②少年が、未だ十分ではないながらも自己の問題性に気付き始め、更生する意欲を示すに至っていること、③両親も、不安を抱きつつも、少年を監護・指導する意向を示していることなどの事情。
少年院送致決定に当たり、短期間の処遇勧告を付さなかったことが、処分不当の抗告理由になるか?
消極に解する見解が有力。
←
①短期処遇が通達に基づく運用上の処遇過程にすぎないこと
②家庭裁判所が付す処遇勧告(少年審判規則38条2項)には執行機関を法的に拘束する効力はない。
短期間の処遇勧告が付されなかった少年院送致決定に対し、処分不当を理由に抗告が申立てられた場合において、抗告審が短期処遇相当という判断に達した場合、抗告を棄却した上で、理由中でその旨の意見を表明するのが通例。
少年院に対しては、処遇勧告書ではなく、通知書を送付する取扱いが一般的。
判例時報2275
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