地方公共団体が特別養護老人ホームの通報を受け、高齢者につき高齢者虐待防止法に基づき一時保護措置を講じる等したことが違法ではないとされた事例
東京地裁H27.1.16
地方公共団体が特別養護老人ホームの通報を受け、高齢者につき高齢者虐待防止法に基づき一時保護措置を講じる等したことが違法ではないとされた事例
<事案>
原告の母に対して被告が講じた高齢者虐待の防止、高齢者の擁護者に対する支援等に関する法律に基づく一時保護措置等に関し、被告の職員に緊急性の判断を誤る等の違法及び過失があったと主張して国賠法1条1項に基づき、損害賠償を請求した事案。
<規定>
高齢者虐待防止法
九条 市町村は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第十六条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。
2 市町村又は市町村長は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第二十条の三 に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第十条の四第一項 若しくは第十一条第一項 の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第三十二条 の規定により審判の請求をするものとする。
<主張>
①厚生労働者老健局が、高齢者虐待防止法の施行に当たって作成した平成18年4月付の「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」と題するマニュアルに記載された項目を確認・検討すべきであった等、緊急性に関する情報収集義務を懈怠することにより、緊急性がある旨誤った判断をした。
②原告の母に対する一連の措置は、原告の母の心身の安全のために必要性と相当性が認められる措置ではなかった。
③原告らからの事情聴取及び原告らへの一時保護措置後の事実確認及び訪問調査をすべき義務があったにもかかわらずこれを怠った。
<判断>
高齢者虐待防止法9条1項2項の規定は、事実確認措置及び一時保護措置を講ずるものとし、又は高齢者虐待対応協力者と協議を行うものとするという一般抽象的なもの。
⇒
市町村の職員に具体的にどのような義務があるのかについて規定するものではない。
当該事案の対応に当たる者のその事案に即した適切な措置に委ねることを相当とした趣旨。
本件マニュアルについては、高齢者虐待防止法の委任に基づき規定されたものではばい。
その記載された項目が直ちに市町村の職員に課された法的義務であるということはできない。
高齢者の虐待の防止及び高齢者の保護に向けたい対応・措置については、これを担当する市町村の職員の合理的な裁量に委ねられており、その対応・措置が著しく不合理で会って裁量の逸脱又は濫用と認められる場合に限り、国賠法上違法であると解するのが相当。
被告の職員の対応は相当であり、原告らからの事情聴取及び原告らへの一時保護措置についての説明、一時保護措置後の事実確認や訪問調査をいずれもしなかったとしても、本件における被告の職員の一連の措置に関し、著しく不合理で会って裁量の逸脱又は濫用があったとはいえない。
<説明>
高齢者虐待防止法9条所定の一時保護措置と類似の制度として、児童福祉法33条所定の児童相談所長等による一時保護措置がある。
後者の違法性の判断基準に関して、
A:一時保護の必要があるとの判断に「合理的な根拠」があることが必要であるとする裁判例(東京高裁H25.9.26)。
B:児童に対して、身体的虐待を含む虐待が行われ、かつ、それが継続する蓋然性が高いと認められるか否かについては、児童相談所長の専門的合理的な裁量に委ねられており、その判断が著しく不合理であって裁量の逸脱又は濫用と認められる場合に限り違法となる裁判例(東京地裁H25.8.29)。
本件は、高齢者虐待防止法9条所定の一時保護措置についても、Bの裁判例と同様の判断基準。
児童福祉法の一時保護措置は保護者の監護権と緊張関係にあるのに対し、高齢は虐待防止法の一時保護措置については、養護者は基本的には成人である高齢者に対して監護権のような権利を有するものではない。
判例時報2271
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