原審での訴訟上の和解を控訴人の真意に出たものではないとして無効と判断し、原審の訴訟終了宣言判決を取り消し、和解無効を確認した上で、本案判断をした事例
東京高裁H26.7.17
原審での訴訟上の和解を控訴人の真意に出たものではないとして無効と判断し、原審の訴訟終了宣言判決を取り消し、和解無効を確認した上で、本案判断をした事例
<事案>
原審の平成25年5月8日の和解期日において、原審裁判官の下で、控訴人は同年10月末日までに本件貸室を明け渡し、被控訴人は立退料として220万円を支払う等の内容の訴訟上の本件和解が成立したとして和解調書が作成。
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控訴人から本件和解が無効であるとして続行期日の指定申立て⇒原審は、本件訴訟が本件和解成立により終了したとの判決。
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控訴人は、本件和解が無効であると主張して控訴。
<判断>
・・・控訴人の上記姿勢(340万円の立退料から一切譲歩の姿勢を認めないこと)を考慮すれば、本件はそれが控訴人の真意に出たものであるかどうかについての確認を慎重を期すべき事案であり、些かでも疑問がある合には、担当裁判官としては、和解を不成立とし、本来の訴訟進行に戻って判決をすべき。
①和解期日における原審裁判官と控訴人とのやり取りは、そのほとんどが和解室での両名だけの会話であった
②本件和解の内容が控訴人の真意に基づいたものであることが明白であるといえるほどに単純なものではない
③控訴人が和解成立、立退料の送金先を裁判所に知らせず、本件和解期日後に和解の成立を前提とする行動をとった事実がない
⇒
本件和解は無効。
自判し、本件賃貸借契約の期間満了による終了を認め、控訴人に、被控訴人に対し、被控訴人から40万円の立退料の支払を受けるのと引き換えに本件貸室を明け渡し、かち、賃料相当損害金を支払うよう命じた。
<解説>
和解無効が争われる事案の判断手法として、①和解に至る前後の経過という外形的事実を押さえた上で、②当事者双方の意向、③和解条項の内容の複雑さ及び④和解成立後の当事者の行動等の事情を総合して、当該和解が当事者の真意に出たものかを判断。
本件和解が無効であると判断された場合、原審に差し戻すか、自判すべきか?審級の利益を奪うのではないか?
民訴法 第307条(事件の差戻し)
控訴裁判所は、訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審裁判所に差し戻さなければならない。ただし、事件につき更に弁論をする必要がないときは、この限りでない。
民訴法307条ただし書の立法経緯
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原審が訴訟終了宣言判決をし、本案判断をしていない場合であっても、原審において攻撃防御が尽くされ、控訴裁判所において判断をするのに熟しており、更に弁論をする必要がないときは、控訴裁判所は、事件について自ら判断することができると解することができる。
判例時報2272
尚、上告受理がされ、不利益変更禁止の原則に違反するなどとして、ひっくり返った模様。
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