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2015年12月19日 (土)

目的外に使用された補助金にかかる交付決定を取り消してその返還を求めないことが違法な怠る事実であると主張して提起された住民訴訟において、その取消決定が行われていない時点においても、地方自治法242条1項所定の「財産」に属する補助金返還請求権の管理を怠る行為に該当すると解された事例

仙台高裁H27.7.15      

目的外に使用された補助金にかかる交付決定を取り消してその返還を求めないことが違法な怠る事実であると主張して提起された住民訴訟において、その取消決定が行われていない時点においても、地方自治法242条1項所定の「財産」に属する補助金返還請求権の管理を怠る行為に該当すると解された事例
 
<事案>
旅費宿泊費にだけ使用する条件の範囲を超えて(目的外に)使用されているとして、超えた分を市に返還せよという趣旨で同市住民Xが提起した地方自治法242条の2に定める住民訴訟。 
3号の金員の支払請求を怠る事実の違法確認の請求を主位的に、
4号の不当利得返還請求又は不法行為による賠償請求訴訟を予備的に
提起。

<規定>
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求

地方自治法 第237条(財産の管理及び処分) 
この法律において「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。

地方自治法 第240条(債権) 
この章において「債権」とは、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利をいう。
 
<争点>
被告が本件補助金交付決定を取り消して本件補助金に係る不当利得返還請求をしないことが、「財産の管理を怠る事実」に当たるか、つまりは補助金の返還請求が財産の管理に当たることは当然であるが、その前提となる、補助金の支給決定の取消しが、住民訴訟の対象となる財務会計行為か、そうではなく、一般行政上の判断(住民訴訟の対象外)であるかどうか
 
<原審>
取消権を行使することによって発生する債権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」と捉え、住民訴訟においてその違法確認等を求めることができるとすると、その審理の対象は、必然的に主として取消権の行使をすべきか否かという点になるが、取消権の行使をすべきか否かは取消権者の行政判断によるもの。
⇒審理の対象は行政判断の是非にならざるを得ない。

これは、住民訴訟の制度が予定している財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を超えるもので、本件補助金交付決定の取消権を行使することによって発生する不当利得返還請求権は「債権に該当しないので、本件3号請求は不適法」

取消権自体も「金銭の給付を目的とする普通地方凶団体の権利」に該当しないから同じ。
 
<判断>
本件規則の規定上、一関市において、補助金が他用途に使用されたと認める場合には、同市は、他用途に使用されたという事実のみを根拠として、自ら当該補助金交付決定の取消しを行い、多用途に使用された補助金の返還を求めることができることとされている。

補助金の返還を求めるに際して、補助金交付決定の取消しを要することは手続上の要件にとどまり、これによって、補助金の返還を求めるべきかどうかの判断に特段の考慮要素を付加するものではない

補助金交付決定の取消決定前の時点においても、実質的には返還請求権が存在しているものと同視することに支障はないとみるのが相当

理由のない公金支出は公益に反することが明らかであるから、これを容認することが合理的な事由、あるいは、補助金の返還を求めることが交付先の資料等に照らして期待できない事由などの補助金の返還を請求しないことを相当とする特段の事由が存在しない限りは、市にはその返還を求めるべき義務があり、返還請求を行わないことについて裁量はない。

補助金交付決定の取消決定が行われていない時点においても、他用途に使用された場合に合理的な理由なく補助金の返還を求めないことは、補助金交付決定の取消しを行わないことを含めて、法242条1項所定の「財産」に属する補助金返還請求権の管理を怠る行為に該当
 
<解説>
一関市の補助金規則上、返還を求める前に、支給決定の取消しという行為が必要となる⇒「取消権」が住民訴訟の対象となる財産権であるかどうかが争点となった。 

普通には、取消権を問題とせず、支出が無効であるから不当利得返還請求(4号請求)をする(違法の場合は使えない)か、補助金支給決定を行政処分としてその取消しを求める(2号請求)(この場合には違法を理由とすることができる)。
but
支出が行政処分ではなく、かつ無効でない(単なる違法)支出の違法を理由にその決定を取り消すという住民訴訟の類型はない⇒支出決定をした長等に対する損害賠償請求しかない。

本件では、取消しをしないことが単なる違法である場合も、それを処分と解することなく、取消しの制度を実質的にはないものとして、住民訴訟を適法とした点において、大きな意義がある。

一関市補助金交付規則は内部要綱ではなく、市長が地方自治法15条1項に基づいて定めた法規範であると考えると、補助金交付決定やその取消しは行政処分であるとの理論構成も考えられる。
その場合には、本件の「取消し」を求める部分は2号請求であると善解して、単なる違法でも、その取消しを認めるべきことになる。

判例時報2272

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