行政手続法12条1項により定められ公にされている処分基準に先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の定めがある場合における先行の処分の取消しを求める訴えの利益
最高裁H27.3.3
行政手続法12条1項により定められ公にされている処分基準に先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の定めがある場合における先行の処分の取消しを求める訴えの利益
<事案>
北海道函館方面公安委員会から風俗営業の許可を受けて、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(「風営法」)2条1項7号所定のぱちんこ屋を営むXが、同委員会から風営法26条1項に基づく営業停止処分を受けた
⇒同委員会の所属するYを相手に、同処分は違法であると主張して、その取消しを求めた事案。
風営法26条1項に基づく営業停止命令等につき、北海道函館方面公安委員会は、行政手続法12条1項に基づく処分の量定等に関する処分基準として、本件規程を定める。
<規定 >
風営法 第26条(営業の停止等)
公安委員会は、風俗営業者若しくはその代理人等が当該営業に関し法令若しくはこの法律に基づく条例の規定に違反した場合において著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき、又は風俗営業者がこの法律に基づく処分若しくは第三条第二項の規定に基づき付された条件に違反したときは、当該風俗営業者に対し、当該風俗営業の許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
行政手続法 第1条(目的等)
この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
行政手続法 第12条(処分の基準)
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
行政事件訴訟法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
<原審>
①風営法26条1項は公安委員会がいかなる内容の営業停止を命ずるかをその裁量に委ねており、過去に営業停止命令を受けたことを理由に処分の加重などの不利益な取扱いができることを定めた法令の規定は存しない。
②本件規程は法令の性質を有するものではなく、将来の処分の際に過去に本件処分を受けたことが本件規程により裁量権の行使における考慮要素とされるとしても、そのような取扱いは本件処分の法的効果によるものとはいえない。
⇒
Xは、処分の効果が期間の経過によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法9条1項)には当たらない
⇒本件訴えは不適法。
<判断>
控訴審判決を破棄し、第一審判決を取り消して、本件を第一審に差し戻した。
行政手続法1条1項や12条1項の規定の文言、趣旨等に照らすと、同項に基づいて定められ公にされている処分基準は、単に行政庁の行政運営上の便宜のためにとどまらず、不利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し、その相手方の権利利益の保護に資するために定められ公にされるものというべき。
⇒
行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において、先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に、当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば、裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から、当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され、この意味において、当該行政庁の後行の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことが羈束されており、先行の処分を受けた者が後行の処分の対象となるときは、上記特段の事情がない限り当該処分基準の定めにより所定の量定の加重がされることになるものということができる。
⇒
行政手続法12条1項の規定により定められ公にされている処分基準において、先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合には、上記先行の処分に当たる処分を受けた者は、将来において上記後行の処分に当たる処分の対象となり得るときは、上記先行の処分に当たる処分の効果が期間の経過によりなくなった後においても、当該処分基準の定めにより上記の不利益な取扱いを受けるべき期間内はなお当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
本件において、Xは、行政手続法12条1項の規定により定められ公にされている処分基準である本件規程の定めにより将来の営業停止命令における停止期間の量定が加重されるべき本件処分後3年の期間内は、なお本件処分取消しによって回復すべき法律上の利益を有するものというべきである。
<解説>
●行訴法は、9条1項括弧書きで、処分の効果が期間の経過によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者は処分の取消しの訴えが提起できる旨を規定
~付随的効果が残存するにとどまるときにも訴えの利益があることを明らかにしている。
●どのような場合に付随的効果が残存し訴えの利益が肯定されるか?
最高裁の判例理論:
①名誉、感情、信用等の棄損は、処分がもたらす事実上の効果にすぎず、このような事実上の効果の除去を測ることを理由として訴えの利益を認めることはできない。
②処分を受けたことを理由とする不利益取扱いを認めた法令の規定がなく、処分を受けたことが情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる場合には、訴えの利益は認められない。
③処分を受けたことを将来の処分の加重自由とするなどの不利益取扱いを認める法令の規定がある場合には、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があり、訴えの利益が認められる。
自動車運転免許の効力停止処分~処分後3年間については訴えの利益を肯定
宅地建物取引業に基づく業務停止処分や医師法に基づく医業停止処分~訴えの利益を否定。
●本判決は、行政手続法12条1項により定められ公にされている処分基準に行政庁に対する一種の拘束力を認め、過去に処分を受けたことを理由とする不利益取扱いを定めた法令の規定がない場合であっても、処分基準にそのような不利益取扱いが定められているときには、処分の効果が期間の経過によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があり、訴えの利益が認められる旨の判断を示した。
判例時報2267
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