同族会社が、100%子会社に当該子会社の株式を譲渡し、みなし配当額を譲渡対価額から控除して計算した譲渡損失額を損金の額に算入したことにつき、税務署長が法人税法132条1項に基づき否認した更正処分を違法と判断した事例
東京高裁H27.3.25
同族会社が、100%子会社に当該子会社の株式を譲渡し、みなし配当額を譲渡対価額から控除して計算した譲渡損失額を損金の額に算入したことにつき、税務署長が法人税法132条1項に基づき否認した更正処分を違法と判断した事例
<事案>
省略
処分行政庁が、法人税法132条1項を適用し、本件各譲渡に係る譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することを否認する旨の本件各譲渡事業年度更正処分を含む本件各更正処分等をした。
Xが、本件各譲渡事業年度更正処分は法人税法132条1項の要件を満たさない違法なもの⇒本件各更正処分等の取消しを求めた事案。
<原審>
Yが主張した法人税法132条1項の「不当」性の評価根拠事実が認定できない⇒Xの請求を認容。
<判断>
法人税法132条1項の「不当」性は、同族会社の行為等が経済的合理性を欠くか否かという基準で判断される。
経済合理性を欠く場合には、独立当事者間の通常の取引と異なっている場合を含む。
~
当該行為等が異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められることを要するとするXの主張を排斥。
本件一連の行為のうち、Xの中間持ち株会社化までの行為(BによるXの持分取得、本件増資、本件融資及び本件株式購入)は、Aグループが負担する日本の源泉所得税額の圧縮(本件税額圧縮)の実現のために一体的に行われたと認められるが、本件各譲渡は、本件税額圧縮の実現のために上記の各行為と一体的に行われたとは認められない。
⇒
本件各譲渡が経済的合理性を欠くか否かは、本件各譲渡自体により判断されるべき。
1株当たりの取得科学と同一の譲渡価額でCによる自己株式の取得に応じた本件各譲渡それ自体は、独立当事者間の通常の取引とことなるとは認められない。
⇒Yの控訴を棄却。
<解説>
●法人税法132条1項の否認の対象となる同族会社の行為等
最高裁昭和53.4.21:
専ら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判断すべきとした原審の判示を前提に、同項は、「原審が判示するような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為計算を否認すべき権限を税務署長に与え」たものと判断。
通説:
上記最判と同様に、行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合に否認が認められる。
経済合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合のみでなく、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われている取引とは異なっている場合を含み、租税回避の意図ないし税負担を減少させる意図が存在することは必要でない。(金子)
●所得税法の同族会社の行為計算否認規定である同法157条の適用が問題となったいわゆる平和事件(東京地裁H9.4.25):
個人が大半の出資持分を有する同族会社に多額の金員を無利息、無期限、無担保で貸し付けた行為は、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間では通常行われない不合理、不自然な経済的活動であり、当該個人の得べかりし利益相当分の収入の発生が抑制されて所得税の負担を不当に減少させるとして、同条の適用を肯定。控訴審でも維持。
金子:行為計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合のことであり、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で行われる取引と異なっている取引の中にはそれに当たると解すべき場合が少なくないであろう。
判例時報2267
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