当時85歳の女性がいわゆる東日本大震災発生から約5か月後に播種性血管内凝固症候群により死亡したことと同震災の発生との間に相当因果関係があるとして災害弔慰金不支給決定が取り消された事例
仙台地裁H26.12.9
当時85歳の女性がいわゆる東日本大震災発生から約5か月後に播種性血管内凝固症候群により死亡したことと同震災の発生との間に相当因果関係があるとして災害弔慰金不支給決定が取り消された事例
<事案>
Xが、Xの内縁の妻Aが平成23年8月に播種性血管内凝固症候群により死亡したのは、同年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、住環境及び生活環境が著しく悪化し、Aが心理的ストレス等により体調を崩して嚥下障害となり、誤嚥性肺炎を発症し、植物摂取傷害により営業が低下し、免疫力及び体力が低下したため⇒Aの死亡は本件震災によるものであるとして、仙台市長に対して災害弔慰金の支給を申請⇒仙台市長はAの死亡と本件震災との間に因果関係はミトン目られないとして災害弔慰金を不支給とする決定⇒XがYに対して本件処分の取消しを求めて提訴。
<規定>
災害弔慰金の支給等に関する法律:
「市町村は、条例の定めるところにより、政令で定める災害により死亡した住民の遺族に対し、災害弔慰金の支給を行うことができる。」(同法3条1魚)
仙台市の「災害弔慰金の支給等に関する条例」:
「本市は、市民が法(災害弔慰金の支給等に関する法律)第3条1項に規定する災害により死亡したときは、その者の遺族に対し、災害弔慰金を支給する。」
<争点>
Aの死亡と本件震災との間に因果関係が認められるか。
<仙台市長>
Xの申請に対し、専門的知見を有する委員で構成される判定委員会が、Aは本件震災後に肺炎を発症したもののその後改善しており、死亡時まで肺炎が継続していたものとはみられず、また本件震災の影響によりAに胃ろうを作るのが難しかったという事実を認め難いことなど
⇒Aの死亡と本件震災との間に相当な因果関係があるとは認定できないと判定。
<判断>
本件震災前のAの健康状態、本件震災によるX及びAの自宅の被害の状況、本件震災後のX及びAの生活状況、Aの健康状態、肺炎及び嚥下障害等の経過を認定。
Aが、本件震災前は食欲があって嚥下に問題はなく、栄養状態は良好であったところ、本件震災後の平成23年4月上旬から食事量が減少し、痰や発熱がみられ、同月下旬にはむせ込み、痰絡みが激しくなって食物をほとんど摂取することができない状態になり、その間著しい体重減少があった
⇒
Aは同年4月上旬頃から嚥下障害となり、同月下旬には誤嚥性肺炎を発症したものと認められる。
このような急激な経過に鑑みると、Aが嚥下障害となったのは、単に既往の認知症の進行や加齢のみによるものとは考え難く、本件震災によりAの生活環境及び住環境が著しく悪化し、Aの心身に多大な負担が掛ったことが大きな要因となったものと合理的に推認できる。
Aがいったんは肺炎が治癒したとの診断を受けたものの、その直後に再び肺炎と診断されており、この間にAの嚥下障害が改善したとは認められない
⇒2度目の肺炎も同年4月上旬以降の嚥下障害により引き起こされたものであって、その後Aは肺炎が治癒することなく全身状態が悪化していき、同年8月に敗血症により播種性血管内凝固症候群により死亡。
⇒
本件震災の発生及びAの嚥下障害、これによる誤嚥性肺炎の発症から死亡に至るまでの一連の経過には相当な因果関係があると認められる。
⇒
Xの申請に対して災害弔慰金を不支給とした本件処分は違法。
<解説>
本判決は、本件震災前後のAの健康状態や生活状況、病状の変化等について詳細に検討した上で、Aが、災害弔慰金の支給要件である、「災害により死亡した」と認められると判断した事例。
判例時報2260
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