準強制わいせつ被告事件において保釈を許可した原々決定を取り消して保釈請求を却下した原決定に刑訴法90条、426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
最高裁H27.4.15
準強制わいせつ被告事件において保釈を許可した原々決定を取り消して保釈請求を却下した原決定に刑訴法90条、426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
<事案>
一審で審理中の準強制わいせつ被告事件について、保釈請求を認めた原々決定を取り消し、保釈請求を却下した原決定に対する特別抗告。
第1回公判期日:公訴事実を争い
第2回公判期日:被害者の証人尋問⇒公訴事実に沿う証言
その後、被告人質問のほか、犯罪現場の使用状況等に関し、被害者証言を弾劾する趣旨で、本件当時、本件予備校に通っていた元生徒1名の証人尋問を請求する方針。
<規定>
刑訴法 第90条〔裁量保釈〕
裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
刑訴法 第426条〔抗告に対する決定〕
抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
②抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。
刑訴法 第423条〔抗告の手続〕
抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出さなければならない。
②原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるときは、決定を更正しなければならない。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは、申立書を受け取つた日から三日以内に意見書を添えて、これを抗告裁判所に送付しなければならない。
<原々決定>
第2回公判期日後に、保証金額を300万円を定め、被害者、上記元生徒及び本件予備校関係者らとの接触を禁止するなどの条件を付した上、被告人の保釈を許可。
<原決定>
弁護人が請求を予定している元生徒の証人尋問が未了であり、本件予備校理事長の職にあった被告人が、上記元生徒ら関係者に働き掛けるなどして罪証を隠滅することは容易で、その実効性も高い。
⇒被告人の保釈を許可した原々決定を取り消した。
<判断>
特別抗告の趣意は適法な抗告理由に当たらないが、職権で判断。
受訴裁判所として、被害者の証人尋問が終了したという審理状況やその結果を踏まえ、罪証隠滅の可能性、実効性の程度を具体的に考慮した上で、現時点では被告人による罪証隠滅のおそれはそれほど高度のものとはいえないと判断し、保釈の必要性、前科がないこと、逃亡のおそれが高いとはいえないことなども勘案して「裁量保釈を許可した原々審の判断は不合理なものとはいえず、原決定は、原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない」
⇒原決定には、刑訴法90条、426条の解釈適用を誤った違法がある。
<解説>
最高裁H26.11.18:
抗告審の審査方法に関し、
「抗告審は、原決定の当否を事後的に審査するものであり、被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていること(刑訴法90条)に鑑みれば、抗告審としては、受訴裁判所の判断が、委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか、すなわち、不合理でないかどうかを審査すべきであり、受訴裁判所の判断を覆す場合には、その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある」が、「原決定は、これまでの公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなされたとみられる原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない」
⇒
保釈を許可した原々決定を取り消した原決定には刑訴法90条、426条の解釈適用を誤った違法がある。
本決定では、原々決定が裁量保釈した理由を、原々審が原審に送付した意見書(刑訴法423条2項後段)により認定。
判例時報2260
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