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2015年8月14日 (金)

条件附採用の公立中学校教員に対する免職処分が違法とされた事例

東京地裁H2612.8   

条件附採用の公立中学校教員に対してなされた免職処分につき、その判断の基礎となる校長の業務評価書の総合評価が、生徒指導・進路指導に関する不合理な評価を含むほか、不十分な初任者研修にとどまった弊害に留意することなく判断したものであることから、これに依拠した免職処分が違法とされた事例 
 
<事案>
地方自治体Yの教育委員会における条件附採用期間を1年間とする教員として採用されたXが、Xの勤務する中学校校長からXに対する特別評価所見の採用の可否について「否」とされ、その後免職処分を受けた

XがYに対し、
(1)校長の不当な評価に基づきなされた同免職処分は、Yの教育委員会の裁量権を逸脱ないし濫用する違法な処分であると主張して同免職処分の取消しを求めるとともに、
(2)校長から違法なパワーハラスメントを受けたとして、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料の支払を求める事案。
 
<判断>
(1)の免職処分は取り消し
(2)の慰謝料請求は棄却 

①校長作成の業務評価書の評価のうち、「生徒指導・進路指導」の項目における評価について客観的、合理性に疑問がある
②前記業務評価書の総合評価が「D」であることに関し、校長はXの「責任感・積極性・協調性等」において、教員として看過しがたい問題点があったと判断したと考えられる。しかし、教員としての適格性を判断するにあたっては、初任者研修による初任者への教育効果を踏まえて判断することが予定されている。
本件では、十分な初任者研修が行われておらず・・・・実のある初任者研修が行われれば、その研修効果による成長・改善の可能性はあったと考えられる。
③本件では、着任当初のXの振る舞いから校長がXの教員としての資質に疑問を持ち、その後の校長らのやや過剰あるいは厳しすぎる指導に対してXが納得せず反発し、校長がさらに否定的な評価をするという悪循環があったことや、校長の副校長に対する評価の低さ及びそれに伴う両者の関係の悪化が、Xと校長との関係にも影響を与え、さらなる混乱を招いたとも考えられる
Xが他の中学で初任者研修を受けていたならば、Xも成長を遂げ、免職されることはなかった可能性は十分に考えられる
④校長の総合評価は、生活指導・進路指導に関する不合理な評価を含むほか、不十分な初任者研修にとどまった弊害に留意することなく判断したものとして、客観性を欠き、かつ不合理なものであったと言わざるを得ない。

これに依拠する任命権者の判断は客観性を欠き、不合理なものであって、裁量権の逸脱、濫用があるものと認められる。
 
<解説>
条件附採用期間中の職員に対する分限処分については、任命権者に相応の裁量権が認められることはいうまでもないが、もとより、それは純然たる自由裁量ではなく、その判断が合理性をもつものとして許容される限度をこえた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法なものというべきであり、右の分限処分がこのような違法性を有するかどうかについては、裁判所の審査に服すべきものである。
(国家公務員の場合に関する最高裁昭和49.12.17、条件附採用期間中の公立中学校職員にについての最高裁昭和52.6.23) 

本判決は、初任者研修の重要性に鑑み、研修効果を十分に享受し得なかったXの免職処分につき裁量権の逸脱、濫用があるとした点で従来にない視点を考慮した判断。

判例時報2259

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