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2015年8月 3日 (月)

西宮市営住宅条例46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち、入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法14条1項及び22条1項

最高裁H27.3.27   

西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち、入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法14条1項及び22条1項 
 
<事案>
X(西宮市)が、市営住宅の入居者であるY1並びにその同居者であるY2及びY3(Y1の両親)に対し、当該市営住宅の明渡し及び明渡し済みまで月額7万7900円の割合による損害金の支払を求めるとともに、
市営住宅の駐車場の使用者であるY2に対し、当該駐車場の明渡し及び明渡し済みまで月額1万円の割合による損害金の支払を求める事案。 

Xは、平成19年12月、西宮市市営住宅条例を改正して、入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定めた。
平成22年10月、従前からの入居者のY1が暴力団員であることが判明。

本件条例 46条1項柱書
「市長は、入居者が次の各号のいずれかに該当する場合において、当該入居者に対し、当該市営住宅の明渡を請求しを請求することがでこいる。」

同項6号
「暴力団員であることが判明したとき(同居者が該当する場合を含む。)。」
本件条例において、「暴力団員」とは、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)2条6号に規定する暴力団員をいうと定義(本件条例7条5号)。 
 
<Xの主張> 
●Y1に対する本件住宅の明渡請求及び損害金の支払請求
本件住宅の明渡請求本件規定に基づくもの
損害金の支払請求は本件条例47条5項(市営住宅の明渡し済みまでの期間につき所定の金員の支払を請求することができる旨の規定)に基づくもの。
 
●Y2及びY3に対する本件住宅の明渡請求及び損害金の支払請求
本件住宅の明渡請求は所有権に基づくもの
損害金の支払請求は不法行為に基づくもの

◎Y2及びY3は単なる同居者にすぎず、独立の占有がないため、Y2及びY3に対しては明渡し請求及び損害金の支払請求ができないように見える。
but
一般に、同居者であっても特段の事情のある場合には独立の占有を有するとされているところ、本件の場合、入居者であるY1自身は現実には本件住宅に居住せず、Y2及びY3のみが居住
Y2及びY3の側も、独立の占有がないという主張をしていない。

Y2及びY3に独立の占有があることを前提に審理を進めている。

Y2に対する本件駐車場の明渡請求及び損害金の支払請求 
本件駐車場の明渡請求は、本件条例56条2項1号、64条2項に基づくもの。
損害金の支払請求は本件条例64条4項に基づくもの。
 
<Y1らの主張>
①本件規定が憲法14条1項(法の下の平等)又は22条1項(居住の自由)に違反するとの法令違憲の主張。
②本件に本件規定を適用することは憲法14条1項又は22条1項に違反するとの適用違憲の主張。 
 
<規定>
憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法 第22条〔居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 
<1審・原審>
Y1らの憲法違反の主張を排斥し、Xの請求をいずれの認容。 
 
<判断>
①本件規定は、暴力団について合理的な理由のない差別をするものということはできない⇒憲法14条1項に違反しない。 

②本件規定による居住の制限は、公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らか⇒本件規定は憲法22条1項に違反しない。

Y1は他に住宅を賃借して居住しており、誓約書が提出されていることなども併せ考慮すると、その余の点について判断するまでもなく、本件において、本件住宅及び本件駐車場の使用の終了に本件規定を適用することが憲法14条1項又は22条1項に違反することになるものではない
 
<解説>
●公営住宅における暴力団排除

最高裁昭和59.12.13:
公営住宅の使用関係には、公の営造物の利用関係として公法的な面もあるものの、基本的には私人間の賃貸借関係と異なるところはない。

国土交通省住宅局長は、平成19年6月1日、「公営住宅における暴力団排除について」と題する通知
①入居申込者が暴力団員⇒入居決定しない
②不正入居が判明⇒明渡請求、損害賠償請求等、法に基づき厳正に対処
③現に入居中の暴力団員⇒自主的な退去の促進に努める

各地方公共団体が、条例制定又は改正により公営住宅からの暴力団排除を実施
 
●暴力団の排除に関する法令等 

◎暴力団対策法 
平成3年に制定
暴力団のうち規制の対象となるものを指定(3条)
その構成員である暴力団員の暴力的要求を禁止(9条)
違反した者に対して公安委員会が中止等を命令(11条)
暴力団の対立抗争時における暴力団事務所の使用制限を命令(15条)

◎資格要件 
各種法令で、一定の資格、許可、承認等における欠格事由に「暴力団対策法における暴力団員」であることを掲げる例。
貸金業法、割賦販売法、債権管理回収業に関する特別措置法等、30本以上の立法例

◎政府指針 
平成19年6月19日、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(政府指針)

企業に対する指針として
反社会的勢力とは取引関係を含めて一切の関係を持たないことや、
契約書及び取引約款に暴力団排除条項(暴力団が取引の相手方となることを拒絶する旨や、取引開始後に暴力団員であることが判明した場合には契約を顔所することができる旨の条項)を導入することなどが示される。

◎各都道府県の暴力団排除条例 
各都道府県において、暴力団の利用や暴力団員との取引を禁止する旨の「暴力団排除条例」が制定。
①暴力団員に対する利益供与の禁止
②商取引からの暴力団排除の推進(契約の相手方が暴力団員でないことを確認するよう努めること、暴力団排除条項の導入に努めること等)
③暴力団事務所として使用されることを知って暴力団員に対して不動産を譲渡又は賃貸することの禁止
④これらに違反した場合の措置等

●下級審判例
広島高裁H21.5.29:
広島市市営住宅条例中の暴力団員の排除に係る条項その他の条項に基づき、市営住宅の入居者に対してその明渡しを求めた事案
「暴力団構成員という地位は、暴力団を脱退すればなくなるものであって社会的身分とはいえず、暴力団のもたらす社会的害悪を考慮すると、暴力団構成員であることに基づいて不利益に取り扱うことは許されるというべきであるから、合理的な差別であって、憲法14条に違反するとはいえない」
⇒広島市の請求を認容。
 
●本件規定と憲法14条1項 
最高裁昭和39.5.27、最高裁昭和48.4.4:
憲法14条1項は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。

「最高裁が憲法適合性の判断基準につき、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくか否かという以上に一般論を明確にしないことは、憲法14条1項違反が問題となる事案の多様性も踏まえた、優れて実務的な発想に基づくものといえよう」と指摘。

憲法14条1項後段は、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めるが、上記各判例は、この同項後段の列挙事由は例示的なものにすぎないとしている。
⇒広島高裁H21.5.29が、暴力団員という地位は「社会的身分」とはいえないことをも根拠に合憲性の判断をしている点は、やや疑問が残る。
 
●本件規定と憲法22条1項(居住の自由)
憲法22条1項は、居住・移転の自由について規定。

①資本主義経済を成り立たせる不可欠の要素として職業選択の自由と結びつく経済的自由の性格を持つとともに、
②自分の好むところに居住し移転するという点で人身の自由という側面を持ち、
③自由な居住移転は他人との意思・情報の伝達や集会等への参加を目的とする場合もあって、精神的自由や幸福追求権とも関連するもの。

成田新法事件判決(最高裁H4.7.1)
規制区域内に所在する建築物等で、多数の暴力主義的破壊主義者の集会の用に供され又は供されるおそれがある場合、運輸大臣はその使用禁止を命じることができるの法令の規定につき、その憲法適合性が争われたもの。

同判決は、
保護される利益を航空機の航行の安全の確保や乗客等の生命、身体の安全の確保等とし、
制限される利益を暴力主義的破壊活動者の集合の用に供する利益として、
①と②を比較した上、これによってもたらされる居住の制限は「公共の福祉による必要かつ合理的なもの」であるとして、上記規定は憲法22条1項に違反しないものと判断。

利益衡量論を合憲性の審査基準として採用したものとされている。

●適用違憲
公営の市営住宅の使用関係は「基本的には私人間の賃貸借関係と異なるところはない」(最高裁昭和59.12.13)
民法1条3項の権利濫用規定の適用もあり得る(改良住宅の明渡請求に関する最高裁H24.12.25も、結論としては権利の濫用に当たらない旨判断するものの改良住宅の明渡しについての権利濫用規定の適用自体を否定しているわけではない。)。

明渡請求が権利の濫用に該当して許されないと判断されることとなり、適用違憲となる余地は、あっても極めて限定されることになる。
 
●本件規定と信頼関係破壊の法理 
Y1らは、原審において、信頼関係破壊の法理が本件条項による明渡請求の場面にも適用されることを前提に、「本件においては信頼関係を破壊しない特段の事情がある」と主張。

原審は、信頼関係の法理が本件条項による明渡請求の場面にも適用され得ることを否定していない。
but
信頼関係破壊の法理は、賃貸借契約において賃借権の無断譲渡・転貸や無断増改築、賃料不払等の債務不履行があった場合に、なお解除権を制限する法理として、判例上形成されてきたもの。
本件規定は、このような行為をもって明渡事由とするものではなく、「暴力団員であることが判明した場合」には明渡を求めることができるというもの

いわば入居資格の喪失による明渡請求

本件規定による明渡請求の場面においては、信頼関係破壊の法理を適用すること自体、相当ではないようにも思われる。

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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