タクシーの運賃変更命令等と差止めの訴え、仮の差止めの訴えの要件
大阪地裁H26.7.29
1.特定地域及び準特定地域においける一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づく運賃変更命令及びこれに違反したことを理由とする同法17条の3第1項に基づく輸送施設の使用停止及び事業許可の取消しの仮の差止めを求める申立てについて、
行政事件訴訟法37条の5第2項所定の「償うことのできない損害を避けるための緊急の必要」があると認められた事例。
2.特定地域及び準特定地域においける一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づく運賃変更命令及びこれに違反したことを理由とする同法17条の3第1項に基づく輸送施設の使用停止及び事業許可の取消しの仮の差止めを求める申立ての本案事件として提起された差止めの訴えについて、
行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書所定の「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たらないとされた事例。
3.特定地域及び準特定地域においける一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に基づく運賃変更命令及びこれに違反したことを理由とする同法17条の3第1項に基づく輸送施設の使用停止及び事業許可の取消しの仮の差止めを求める申立てについて、
行政事件訴訟法37条の5第2項所定の「本案について理由があるとみえるとき」に当たるとされた事例
<事案>
準特定地域に指定された地域においてタクシー事業を営む申立人が、国土交通大臣の権限の委任を受けた近畿運輸局長から、申立人の届け出た運賃が公定幅運賃の範囲内にないことを理由として使用停止処分及び運賃変更命令を受けるおそれがあり、さらに、運賃変更命令に違反したことを理由として使用停止処分及び事業許可取消処分を受けるおそれがある⇒相手方に対し、これらの差止めを求める訴えを提起し、行訴法37条の5第2項の規定により、上記各処分の仮の差止めを求める事案。
<規定>
行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
行訴法 第37条の5(仮の義務付け及び仮の差止め)
2 差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
<争点>
①本案である差止めの訴えが「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」(行訴法37条の4第1項但し書)に当たらないか
②「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」(同法37条の5第2項)があるか
③「本案について理由があるとみえる」(同項)か
<判断>
●争点②について
「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があると認められるためには、
①処分がされると、金銭賠償によっては回復が不可能であるか、金銭賠償のみによることが社会通念上著しく不相当と認められるような損害が生じ、かつ、
②処分後にその取消訴訟を提起して執行の停止を求める方法等によっては当該損害の発生を避けられないことが必要である。
申立人は、直ちに運賃変更命令を受け得る状況にあり、運賃変更命令を受ければ、その後、短期間で、使用停止処分を受け、二回目の運賃変更命令を経て事業許可取消処分を受けることになると認められるところ、事業許可取消処分を受ければ、タクシー事業の遂行自体が不可能になり、申立人の事業基盤に深刻な影響を及ぶ。
⇒
当該損害については、当該処分が違法であった場合、金銭賠償を認めるのみでは社会通念上著しく不相当であり、申立人は、一連の処分によって、償うことのでいない損害を被るものと認められる。
運賃変更命令が発せられてからその取消訴訟を提起して執行の停止を求めるなどしても実効的な救済を得ることは困難。
⇒
運賃変更命令並びにこれに違反したことを理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分については、「償うことのできない損害を避けるための緊急の必要」があるといえる。
公定幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしたことを理由とする使用停止処分については、予定される処分の内容に照らすと、当該処分によって申立人に償うことのできない損害が生ずるとは認められない⇒本件申立てのうち、当該処分に係る部分は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
相手方:事業許可取消処分を受けても、その取消訴訟を提起して思考停止決定を得れば事業を継続できる地位を回復できると主張。
vs.
本判決:
仮に執行停止決定を受けても、それまでに多大な経済的損害を被るおそれがある上、運賃変更命令やこれに違反したことを理由とする使用停止処分及び事業許可取消処分は、公定幅運賃の範囲内の運賃の届出がされない限り、反復して行うことが可能。
⇒各処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険。
⇒一連の累次の処分がされることによる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどによっては、実効的な救済を受けることができない。
●争点①について
①運賃変更命令、使用停止処分及び事業許可取消処分という一連の累次の処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどによっては、実効的な救済を受けることができない。
②これらの処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとも認められない。
⇒
その差止めを求める訴えは、「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たらない。
●争点③について
公定幅運賃の範囲の指定に係る地方運輸局長の判断には、裁量的要素があるものの、特措法の趣旨等に照らして合理性を欠く等により、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものち認められる場合には、公定幅運賃の範囲の指定は違法となる。
準特定地域において、道路運送法に基づく認可を受けていわゆる下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者に当該運賃による営業を認めても、直ちに低額運賃競争が行われ、運転者の労働条件の悪化や、それに伴う安全性やサービスの質の低下等が生ずるとはいえない。
⇒
地方運輸局長は、当該事業者の運賃や経営実態をも考慮した上で当該地域における公定幅運賃の下限を定めることを要する。
but
近畿運輸局長は、下限割れ運賃で営業していた申立人等のタクシー事業者の運賃や経営実態等を全く考慮せずに公定幅運賃の範囲を指定。
⇒
その判断は、考慮すべき事項を考慮しなかったものちして、合理性を欠くと一応認めることができる。
<解説>
同種事案について、大阪地裁及び福岡地裁が仮の差止めを認める決定をし、高裁でも維持されて確定。
判例時報2256
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