国籍法12条と憲法14条1項
最高裁H27.3.10
国籍法12条と憲法14条1項
<事案>
日本国籍を有する父とフィリピン共和国国籍を有する母との間に嫡出子として同国で出生し同国籍を取得したXらが、出生後3か月以内に父母等により日本国籍を留保する意思表示がされず、国籍法12条の規定によりその出生の時から日本国籍を有しないこととなった。
⇒同条の規定は憲法14条1項等に違反し無効であると主張してY(国)を相手として、日本国籍を有することの確認を求める事案。
<規定>
国籍法 第12条
出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。
憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
<争点>
国籍法12条は、出生により外国の国籍を取得して日本国籍との重国籍となるべき子のうち「国外で生まれた」者については、日本で生まれた者と異なり、戸籍法104条の定めに従って出生の届出をすべき父母等により出生の日から3か月以内に日本国籍を留保する意思表示がその旨の届出によりされなければ、その出生時から日本国籍を有しないものと定め、その生来的な取得を認めないという区別(「本件区別」)を設けているところ、本件区別が合理的な理由のない差別であって、憲法14条1項に違反するか。
<1審、原審>
国籍法12条は憲法14条1項等に違反しない
⇒Xらの請求を棄却。
<解説>
国籍留保制度の制度趣旨:
国籍唯一の原則(人はいずれかの国籍を有し、かつ、1個のみの国籍を有すべきであるとする原則)を前提とし、外国で出生した日本国民で外国の国籍をも取得した者は、日本で出生し日本国籍だけを取得した者と比較し、出生時の生活の基盤が外国に置かれている点で我が国と地縁的結合が薄く、他方で、外国国籍をも取得している点でその外国との結合関係が強い
⇒
①日本国籍を取得しても、実効性がない形骸化したものになる可能性が相対的に高いためそのような実効性がない形骸化した日本国籍の発生をできる限り防止する(形骸化した国籍の発生の防止)とともに、
②弊害が大きいとされる重国籍の発生をできる限り防止し解消すべく(重国籍の解消等)、子の利益を代表すべき出生届の届出義務者である父母等が、日本国に対して国籍留保の意思表示をして日本国籍の取得を欲することを明示しない場合には、子について出生時に日本国籍を取得させないこととしたもの。
③副次的な目的として、留保の届出がされた者は戸籍に登録されるため、戸籍に登録されない日本国民の発生を防止し、日本国民の範囲を公簿上明らかにする機能があることも期待。
国籍の規定の憲法14条1項適合性が問題となった事案:
・国籍法2条1号の規定の合憲性を認めた最高裁H14.11.22
・日本人父と外国人母との間に出生した嫡出でない子につき準正嫡出子に限って事後的に日本国籍を付与するとした同法3条1項(平成20年改正前のもの)の規定を違憲とした最高裁H20.6.4
平成20年判決:
旧3条1項について、日本人父と外国人母との間に出生した嫡出でない子は生後認知を受けても生来的に日本国籍を取得するものではなく、準正嫡出子とならない限り同項の規定により事後的にも日本国籍を取得し得ないこととされ、国籍取得の手段としては法務大臣の広範な裁量に委ねられた簡易帰化(国籍法8条1号)等によらざるをえないという極めて厳しい立場に置かれるもの。
⇒救済の必要性が高かった。
<判断>
最高裁判例が示した憲法14条1項適合性に係る判断の枠組みを前提としつつ、本件の事柄の性質等に即して立法目的及びこれとの関連における区別内容の合憲性の判断のあり方について整理した上で、
国外で出生して日本国籍との重国籍となる子に関して、例えば、その生活の「基盤が永続的に外国の置かれることになるなど、必ずしも我が国との密接な結びつきがあるとはいえない場合があり得ることを踏まえ、実体を伴わない形骸化した日本国籍の発生をできる限り防止するとともに、内国秩序等の観点からの弊害が指摘されている重国籍の発生をできる限り回避することとした国籍法12条の立法目的には合理的な根拠がある。
国籍法2条が本件区別を設け散ることについて、
①出生の届出をすべき父母等による国籍留保の意思表示をもって当該子に係る我が国との密接な結びつきの徴表とみることができること、
②その意思表示の期間も、昭和59年改正により、子の出生の日から3か月以内と伸長されており、また、その届出も出生の届出とともにすれば足りる(出生届出の枠内の「日本国籍を留保する」との不動文字の欄に父母等が署名等する)など、意思表示の方法や期間にも配慮がされていること
③父母等によるによる留保の意思表示の失念により日本国籍を有しないものとされた子についても、日本に住所があれば20歳に達するまで法務大臣に対する届出により日本国籍を取得することができるものとされていること
⇒
本件区別の具体的内容は、前記の立法目的との関連において不合理なものとはいえず、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものということはできない。
⇒
同法12条が憲法14条に違反しない。
判例時報2257
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 保護観察中の特定少年の特殊詐欺の受け子としてのキャッシュカード窃取で第1種少年院送致(期間3年)の事案(2023.06.06)
- 社債の私募の取扱いをした証券会社の損害賠償義務(肯定)(2023.06.06)
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント