人事院勧告によらずに給与を減額することを内容とする給与改定・臨時特例法の合憲性(合憲)
東京地裁H26.10.30
人事院勧告によらずに給与を減額することを内容とする給与改定・臨時特例法が違憲、違法であるとして、国家公務員らが国に対して求めた賃金の差額等の請求が棄却された事例(給与改定・臨時特例法違憲訴訟第一審判決)
<争点>
給与改定・臨時特例法が憲法28条等に違反するか
<規定>
憲法 第28条〔勤労者の団結権・団体交渉権その他団体行動権〕
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
<判断>
国公法の定めからすれば、国会が、人事院勧告や民間準拠原則に基づかず、給与減額支給措置の立法をすることが一義的に許されていないと解することはできない。
but
①人事院勧告が国家公務員の労働基本権制約の代償措置としては中心的かつ重要なものであること、②民間準拠原則が国家公務員の給与水準の増減決定において客観性を支えるものであること
⇒当該立法について必要性がなく、又は、人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法がされた場合には、立法府の裁量を超えるものとして当該法律が憲法28条に違反する場合があり得る。
この点の判断に当たっては、給与減額措置を必要とする理由、減額の期間及び程度等の当該措置の内容等の事情を考慮すべきであり、給与改定・臨時特別法が人事院勧告に基づいていないことをもって、直ちに憲法28条に反するものとはいえない。
①当該立法について、財政状態の悪化に加え東日本大震災への対処の必要性があったこと
②減額幅及び二年間の期間限定とされたことなどの事情
⇒人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価すること相当ではない。
⇒給与改定・臨時特例法を違憲ということはできない。
<解説>
労働基本権と人事院勧告との関係について、刑事事件であるが、
最高裁昭和48.4.25:
「国家公務員についても憲法によってその労働基本権が保障されている以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれていることを必要とするから、その労働基本権を制約するに当たっては、これに変わる相応の措置が講じられなければならない。」
政府が昭和57年度に財政状態の逼迫を理由に人事院勧告の不実施を決めたことに対する争議行為について、最高裁H12.3.17:
「本件ストライキの当時、国家公務員の労働基本権の誓約に対する代表措置がその本来の機能を果たしていなかったということはできないことは原判示のとおりであるから、右代償措置が本来の機能を果たしていなかったことを前提とする所論意見の主張はその前提を欠く」
判例時報2255
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