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2015年7月26日 (日)

被害者等が被害状況等を再現した結果を記録した捜査状況報告書につき、刑訴法321条1項3号所定の要件を満たさないのに同法321条3項のみにより採用した第1審の措置を是認した原判決に違法があるとされた事例

最高裁H27.2.2   

被害者等が被害状況等を再現した結果を記録した捜査状況報告書につき、刑訴法321条1項3号所定の要件を満たさないのに同法321条3項のみにより採用した第1審の措置を是認した原判決に違法があるとされた事例
 
<事案>
被告人が、港湾施設管理運営のための調査業務に従事していた県職員に暴行を加え、その職務の執行を妨害したという、公務執行妨害の事案。 

被告人は暴行行為を否認。

捜査段階において警察官が被害者及び目撃者に被害状況や目撃状況を再現させた結果を記録した捜査状況報告書の証拠能力が問題

一審公判において、検察官は、被害状況あるいは目撃状況につき被害者及び目撃者に動作等を交えて再現させた様子を撮影した写真が、撮影状況や指示内容に関する説明付きで添付された捜査状況報告書2通(「本件各証拠」)を、「被害者指示説明に基づく被害再現状況等」あるいは「目撃者指図説明に基づく犯行目撃状況等」を立証趣旨として、証拠調べ請求。
⇒弁護人不同意
⇒作成者の警察官2名を証人尋問実施
⇒証人尋問終了後、検察官は本件各証拠につき、刑訴法321条3項による採用を求めた
⇒弁護人は、いずれも刑訴法321条1項3号所定の書面であり、異議がある旨述べた。
but
一審裁判所は、本件各証拠を前記立証趣旨のままづ緒法321条3項のみにより採用して取調べで被告人有罪。

被告人が控訴し、訴訟手続の法令違反を主張
 
<規定>
刑訴法 第321条〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。

三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
 
<原審>
一審の証拠採用及び証拠の標目の項の記載からすれば、本件各訴訟添付の各写真及びそれらについての説明は被害状況及び目撃状況それ自体を立証する趣旨のものではなく、それらの状況自体は別途証人尋問において立証を求め、それらの状況が立証された際にその状況をより理解しやすくするための資料として、本件各書証が採用。
⇒本件各書証添付の各写真及びそれらについての説明を、被害状況及び目撃状況それ自体を立証する証拠として採用していない。
⇒本件各書証を刑訴法321条3項により採用した原審の訴訟手続には何ら違法な点はない。
 
<判断>
上告趣意のうち、本件各書証の証拠能力に関して判例違反をいう点は、原判決の結論に影響のないことが判示自体において明らかな事項に関する主張⇒適法な上告理由に当たらない。
職権で、本件各書証は、実質においては、被害者や目撃者が再現したとおりの犯罪事実の存在が要証事実となるものであって、原判決が、刑訴法321条1項3号所定の要件を満たさないのに同法321条3項のみにより採用して取り調べた第一審の措置を是認した点は、違法であるが、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすものではない。
⇒上告棄却。
 
<解説>
警察官が被害者に被害状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証の証拠能力について:

最高裁H17.9.27:
そのような書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには、同法321条3項所定の要件が満たされるほか、
再現者の供述録取部分については、再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項3号所定の要件が、
写真部分については、署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要がある。

①本件各書証は、その内容から、警察官が被害者及び目撃者に被害状況あるいは目撃状況を動作等を交えて再現させた結果を記録したもの。
「被害者指示説明に基づく被害再現状況等」ないし「目撃者指示説明に基づく犯行目撃状況等」を立証趣旨としたまま証拠採用。
再現内容の真実性を離れた、例えば、物理的可能性の検討といった別の証拠価値を有するものとはうかがわれない

実質においては、再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものであり、刑訴法321条1項3号所定の要件が満たされる必要があると判断。 

●本件各書証のような被害再現実況見分調書の性質を有する書証につき被告人側から不同意の意見
⇒実務上は、検察官において、再現写真の部分のみを用意し、これを被害者等の証人尋問の際、証人から被害状況等に関する具体的な供述がされた後、その供述を明確化するために、証人に示して尋問を行い(刑訴規則199条の12)、尋問の終了後、裁判所がこれを証人尋問調書に添付する(同規則49条)という扱いが多く取られている。

刑訴規則 第199条の12(図面等の利用・法第三百四条等)
訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。

刑訴規則 第49条(調書への引用)
調書には、書面、写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し、訴訟記録に添附して、これを調書の一部とすることができる。

最高裁H23.9.14:
被害者の証人尋問において、捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を示すことを許可した裁判所の措置に違法がないとされた事例。
証人に示した被害再現写真を刑訴規則49条に基づいて、その写真を独立した証拠として扱う趣旨ではないから、当事者の同意は必要ではない、証人に示された被害再現写真が独立した証拠として採用されなかったとしても、証人がその写真の内容を実質的に引用しながら証言した場合には、引用された限度において写真の内容は証言の一部となり、そのような証言全体を事実認定の用に供することができる旨判示。

最高裁H25.2.26:
被告人質問の際に示されて被告人が同一性や真正な成立を確認したものの、公判調書中の被告人供述調書に添付されたのみで証拠として取調べられていない電子メールが、独立の証拠又は被告人の供述の一部にならないとされた事例。

判例時報2257

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