共謀の事実につき争いのある傷害保護事件について検察官関与決定をし、傷害罪について共同正犯が成立するとした上で、少年のこれまでの生活歴、家庭環境、専門機関による支援体制等に照らして、少年を保護観察に付した事例
広島家裁H26.9.11
17歳の少年による窃盗、傷害保護事件において、共謀の事実につき争いのある傷害保護事件について検察官関与決定をし、傷害罪について共同正犯が成立するとした上で、少年のこれまでの生活歴、家庭環境、専門機関による支援体制等に照らして、少年を保護観察に付した事例
<事案>
審判当時17歳の少年による2件の窃盗保護事件及び1件の傷害保護事件について言い渡された保護観察処分の決定。
本決定は、被害者の証言の信用性を肯定し、B,D及びEの3名は事件後に口裏合わせをしたものであって同人らの供述は信用できず、少年のアリバイは成立しないと判断。
少年及び共犯少年Bは、事実誤認等を主張して抗告
⇒広島高裁は、本決定の事実認定に誤りはないとして抗告を棄却。
<解説>
●検察官関与手続
平成12年改正の少年法22条の2:
「①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、②①のほか、死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」について、非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるとき
⇒家庭裁判所は検察官を関与させる決定ができる。
平成26年改正により、検察官関与の対象事件の範囲が、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役又は禁錮に当たる罪」に拡大。
本件は、平成26年改正により新たに検察官関与が可能となった傷害罪にかかる事件。
●関係者多数の事案の証拠調べ
本件では、事件関係者として被害者の友人である2名の未成年者の証人尋問が行われ、当該2名の事件後の行動や共犯少年との連絡状況から、当該2名が事件後に共犯少年と口裏合わせをし、共犯少年及び少年の関与を否定する証言をしたものと判断。
●観護措置期間と審判スケジュール
鑑別所において相応の心身鑑別を行うためには、2、3週間程度を要するものとされる。
平成12年改正前の少年法:
心身鑑別等の要保護性調査のための期間のみを念頭においていた⇒例外的な場合を除き、監護保護期間は最長4週間(14回の更新)
but
複雑困難な否認事件の場合には、4週間の観護措置期間中に処遇決定にまで至るのは、集中証拠調べを行ったとしても困難。
⇒
平成12年改正により、最長8週間までの特別更新(合計3回の更新)が可能。
少年と共犯少年の他に少なくとも4名の証人を取り調べた本件も、特別更新した上で観護措置中に審理を終えたものと思われる。
●処遇選択
少年保護事件は個別処遇であり、単純に非行事実の軽重から少年の処分の大枠が決まるということはない。
共犯者の処分と比較してそ軽重を論ずることも難しい。
少年の処遇選択に当たっては、
①少年自身が自己を律し社会に適応していこうとする構えをどの程度持っているかという点と、
②これを支える社会資源との相関関係により
保護処分の種類が選択。
本件では、
①少年の否認には資質上の問題が影響している可能性があること
②適当な社会資質が存在し専門家の指導があれば更生が可能と見込まれたことが指摘された上で、
結論としては社会内処遇である保護観察が選択。
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