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2015年6月 1日 (月)

課長職にあった労働者が発症した心肺停止・低酸素性脳症が業務上の疾病に当たるとされた事例

東京高裁H26.8.29   

課長職にあった労働者が発症した心肺停止・低酸素性脳症が業務上の疾病に当たるとされた事例
 
<事案>
財団法人Aの課長として勤務していたX(46歳)が、自宅で心肺停止状態となり、病院で「来院時心肺停止、蘇生後低酸素性脳症」(本件疾病)と診断⇒本件疾病はAにおける業務に起因するものであるとし、労働者災害補償保険法に基づき療養補償給付の請求不支給決定(本件処分)⇒Yに対して、本件処分の取消しを求めた。 
 
<規定>
労働者災害補償保険法 第7条〔保険給付〕 
この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
三 二次健康診断等給付

<争点>
本件疾病が業務上の疾病に当たるか否か 
 
<原審>
業務起因性を否定しXの請求を棄却
 
<判断>
①本件疾病に、Xの高コレステロール血症及び喫煙が影響したと断定することはできず、仮にその影響を否定できないとしても、これらによって、Xの欠陥病変等が、本件疾病の発症当時、他に発症因子がなくてもその自然の経過により本件疾病を発症させる寸前にまで進行していたとみることは困難
②Xは、本件疾病が発症した日(平成20年3月31日)の5日前、・・・室外でその様子を聞いた女性職員ですらショックで忘れられず恐怖感を感じたというほど数十分にわたり一方的に怒鳴られ、また、この時期は一年間の入札事業の受注を左右する入札が集中し、入札金額の決定には最終的に上司の決裁を要するのに、Xは同月27日に上司から決裁を拒否され、繰り返し決裁してくれるよう求めざるを得ない状況に置かれたところ、かかる出来事は、組織に於いて勤務する通常の労働者にとっては、相当に強い緊張をもたらす突発的で異常な事態で、これによる強度の精神的負荷は、Xの血管病変等をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因になり得る
③・・・Xの年齢をも考慮すれば、同月の勤務は、控訴人に相応の疲労の蓄積をもたらすものであった。

Xが勤務により疲労を蓄積していたという身体的負荷を背景として、業務上遭遇した上司による一方的叱責と決裁拒否という異常な出来事による強度の精神的負荷が、Xが有していた血管病変等をその自然の経過を超えて急激に悪化させたことによって本件疾病が発症したもの

本件疾病の発症と業務との間に相当因果関係が認められる
 
<解説>
労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付は、労働者の業務上の負債、疾病、障害又は死亡に関して行われる(同法7条1項1号)

上記疾病等が「業務上」のものといえるためには、上記疾病等と業務との間に相当因果関係があることが必要(最高裁)。
 
相当因果関係:
A:相対的有力原因説:
業務が、傷病等の発生という結果に対し、他の原因と比較して相対的に有力な原因となっている関係が認められることが必要
B:共働原因説:
業務の遂行が他の原因と共働の原因となって、傷病等の発生という結果を招いたと認められれば足りる

最高裁は、一般的な判示をすることなく、具体的な事案に即して相当因果関係の有無の判断をしてきている。

判例時報2252

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