刑法175条1項後段にいう「頒布」の意義
最高裁H26.11.25
1.刑法175条1項後段にいう「頒布」の意義
2.顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録、保存させる行為と刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁記録の頒布
<事案>
わいせつ電磁的記録等送信頒布、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管の事案に関する被告人上告事件
日本在住の被告人は、日本及びアメリカ合衆国在住の共犯者らとともに、日本国内で作成したわいせつな動画等のデータファイルをアメリカ合衆国在住の共犯者らの下に送り、同人らにおいて同国内に設置されたサーバコンピュータに同データファイルを記録、保存⇒日本人を中心とした不特定かつ多数の顧客に同データファイルをダウンロードさせる方法で有料配信する日本語ウェブサイトを運営。
①日本国内の顧客が、平成23年7月及び同年12月、上記配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータをダウンロードして同人のパソコンに記録、保存
⇒被告人らによるわいせつ電磁記録等送信頒布
②被告人らは、平成24年5月、上記有料配信に備えてのバックアップ等のために、東京都内の事務所において、DVDやハードディスクにわいせつな動画等のデータを保管⇒わいせつ電磁記録有償頒布目的保管
<規定>
刑法 第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
刑法 第1条(国内犯)
この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。
<被告人の主張>
①サーバコンピュータから顧客のパソコンへのデータの転送は、データをダウンロードして受信する顧客の行為によるもの⇒被告人らの頒布行為に当たらない。
②被告人らの悔いといえる上記配信サイトの開設、運用は日本国外⇒刑法1条1項にいう「日本国内において罪を犯した」者に当たらない。
③わいせつな動画等のデータファイルの保管も日本国内における頒布の目的でされたものとはいえない。
<解説・判断>
● 刑法175条1項後段の「頒布」の意義:
不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと判示。
データ送信時には被告人らの直接的行為は介在していないものの、被告人らが顧客の操作による自動送信機能を備えた配信サイトを運営しており、顧客によ操作は被告人らが意図した送信の契機にすぎない
⇒
顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録、保存させる行為は、被告人らによる行為であり「頒布」に該当。
論理的根拠としては、
A:顧客を間接正犯における故意ある幇助道具と位置付け
B:わいせつ電磁的記録等送信頒布罪もわいせつ物頒布罪同様に必要的共犯であって対向的関与者の行為も正犯者の行為と捉える考え
●国内犯については、犯罪を構成する事実の全部又は一部が日本国内で生じたことをいうとする偏在説(判例)
頒布行為の一部であるわいせつ電磁記録の記録、保存が日本国内で生じている。
共謀行為も日本国内。
⇒国内犯該当性が明らか。
判例時報2251
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