1年の任期付きで任用された都立高校教員の再任用選考の不合格が国家賠償法上違法とされた事例
東京地裁H26.3.6
1年の任期付きで任用された都立高校教員の再任用選考の不合格が国家賠償法上違法とされた事例
<事案>
東京都立高校教員を定年退職した後、東京都教育委員会により任期1年の一般職公務員(教員)として再任用され、都立高校教諭として勤務。
三期目の再任用を申し込んだところ、選考で不合格とされ、非常勤講師としてのみ採用⇒東京都に対し、再任用選考で不合格とされたことが違法であると主張し、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求。
<争点>
①都教委が原告を再任選考で不合格としたことに国賠法1条1項の違法があるか
②違法がある場合の損害額(逸失利益及び慰謝料の額)
<判断>
●争点①について
地方公共団体の任用期間の定めのある職員には任用期間満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利、又は、任用されることを期待する法的利益はないが、任命権者が当該職員に対し、任用期間満了後も任用を続けることをことを確約ないし保障する等、任用期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたとうような特別の事情がある場合には、そのような誤った期待を抱いたことによる損害につて国賠法に基づく賠償を認める余地があり得る(大阪大学図書館事件(最高裁H6.7.14))と同様の判断基準。
再任用職員の採否は条例による学校職員の定数による制約を受ける上、勤務実績が良好な場合に「任期の更新を行うことができる」という条例の文言からして、当然に再任用の更新がされるわけではないことが明示されている。
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東京都における公立学校の再任用制度は、公的年金の満額支給年齢の引き上げに合わせて導入されたもので、最近3年は92~96%の合格率で合格し任用されている実態があり、採用試験はなく、面接も二期目から所属長による面接のみとなり、原告は対年後に二期(2年間)再任用され、原告に開示されたその二期の業績評価はいずれも「B(良好)」とされていた。
⇒原告が再任用期間満了後も任用が継続されると期待することに無理からぬ事情がある。
任命権者である都教委には、再任用の合否の判断について広範な裁量権があるものの、著しく合理性、社会的相当性を欠く理由により不合格とした場合には、裁量権の逸脱があり国賠法上違法となる。
①校長が、原告に対し、再任用先行の面接であることを明示せず、評定項目について確認しなかった⇒校長が作成した面接評定票は、都教委が再任用選考において要求する面接評定票とは評価できないもの⇒本件再任用不合格は、判断のための重要な証拠資料を欠いてされた。
②低評価の理由となった原告の言動については、低評価の理由とされた大部分の言動については原告がそのような言動をしたと認めることはできないし、認定できる原告の言動については、校長の権限を侵害するとも、学校運営に非協力的であるとも評価できない。
⇒
校長の作成した推薦書及び面接評定票に基づいてした都教委がした再任不合格の判断は、著しく合理性、社会的相当性を欠く理由によりなされたもの⇒裁量権を逸脱したものとして国賠法上違法となる。
●
①再任用職員であった場合に得られた1年間の報酬額と非常勤講師として得た報酬額の差額50万円を逸失利益。
②再任用されていれば現任校で勤務できたところ、生徒との信頼関係を築いていた現任校での勤務が出来なくなったことについて逸失利益では填補できない精神的苦痛。⇒慰謝料20万円。
<解説>
簡素な採用手続で毎年9割以上が合格する都立高校の教員の再任用において、過去に二期再任用され、その際の業績評価も良好であった原告には、任用継続の期待を持ったことに無理からぬ事情があると判断。
再任用の手続において必要とされる所属長の面接に不備があり、低評価の理由となった出来事が存在しないか、存在しても低評価とすることに合理性がない⇒任用不合格は違法。
判例時報2249
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